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竹林軒出張所

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『ショパン・時の旅人たち』(ドキュメンタリー)

ショパン・時の旅人たち 第一回国際ピリオド楽器コンクール
(2018年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

特異な解説者を得たこのドキュメンタリーは
格別な仕上がりになった


b0189364_18010775.jpg 5年に一度ワルシャワで開催されるショパン国際ピアノ・コンクールはピアノ演奏家の登竜門として有名だが、2018年、同じワルシャワで古楽器を使用したピアノ・コンクールが新たに開催されることになった。これがショパン国際ピリオド楽器コンクールで、その模様を追いかけたのがこのドキュメンタリー。最近ドキュメンタリーで時折目にする「コンクールもの」である。
 このドキュメンタリーも、他のコンクールものあるいはグレート・レースものと同じように、数人の参加者にスポットを当てて、ファイナルまで追いかけていくというアプローチだが、ただ一つ他のドキュメンタリーと違うのは、参加者の1人(川口成彦)が非常に雄弁に(まるで解説者であるかのように)心境や古楽器のピアノについて語ってくれることで、それがためにこのドキュメンタリーは他と一線を画すすばらしい仕上がりになっている。
b0189364_18024161.jpg このコンクール、「ピリオド楽器コンクール」というだけあって、使用されるのは、ショパンの時代に使用された古楽器のピアノ(いわゆるピアノフォルテ)である。ショパンの時代はピアノが大幅に改良された時代であり、ショパンも時代ごとに何種類かのピアノを使い分けていたと考えられている。つまり作曲した楽曲によって、想定されているピアノが異なっている可能性があるということである(竹林軒出張所『ピアノの詩人ショパンのミステリー(ドキュメンタリー)』を参照)。このコンクールでは、参加者が、4台あるピアノフォルテから楽曲に合った任意の1台(もしくは数台)を選択し、それを演奏していくという方法論が採用されている。したがって単に演奏がうまいと言うだけではだめで、音色やショパンの楽曲に対する理解なども問われることになる。表現力がトータルで試されるわけで、そういう点ではなかなかに意欲的なコンクールと言える。
 コンクールは2018年9月1日から2週間に渡って実施された。事前にDVD書類審査で選抜された30人が1次審査を受け、その中の15人が2次審査に進む。2次審査では、ピアノ・ソナタなどトータルで50分に渡って演奏し、その中からさらに選ばれた6人が最終審査に臨む。最終審査では18世紀オーケストラと協奏曲を共演するという流れになる。
 このドキュメンタリーで密着する参加者は、先述の川口成彦の他に、マ・シジャ(中国)、ディナーラ・クリントン(ウクライナ)、クシシュトフ・クションジェク(ポーランド)で、最終審査まで残る者もいれば、1次審査で落ちる者もいる。それぞれ感じること、抱えていることがあり、そのあたりにこの種のドキュメンタリーの目玉があるのが一般的だが、このドキュメンタリーについては、先ほども言ったように川口成彦のキャラクターがすばらしく、そのあたりが一番の見所になっている。
b0189364_18010179.jpg なんといっても、非常に穏やかな好青年であり、感じていることやどのあたりが演奏のポイントかなどについてかなり細かく説明してくれる。特にピアノフォルテに対する理解と情熱がすばらしく、それぞれの楽器でどのような音が鳴るか、自分がどのように表現したいか、そしてコンクールの場でそれを表現することにどのような難しさがあるかなど、非常に丁寧に説明してくれるのである。このコンクールが実況されて専属解説者がいたとしても、ここまでの解説は不可能ではないかと感じる。しかも、たとえばモデレーター(弱音器)を使うことで表現がどのように変化するか実際に演奏して見せてくれたりする。プレイエル、エラール、ブッフホルツなど、コンクールで使われたピアノフォルテについてもそれぞれの特徴を解説してくれ、その上で彼のコンクールの演奏を楽しむことができるため、コンクールのウチとソトの両方からコンクールに迫れるような感覚さえある。しかもこの川口氏、最終審査まで残ったため、視聴者はこのコンクールを隅から隅まで楽しめるようになっている。コンクールものでここまで徹底したものはかつてなかったんじゃないかと思う。それもこれもすべて、この川口氏という特異な演奏家のおかげである。
 ちなみにこの川口氏、オランダ在住で、18世紀オーケストラにも出入りしていたため、最終審査で共演したオーケストラの面々とも顔見知りだった。団員から「ファイナルまで来たの、すごーい」みたいなノリで激励されており、とても愛されているというような印象を受けた。演奏にも人間性が滲み出るということは良くあるが、そのあたりもこの人の魅力だったんじゃないかと思う。今後、川口氏と18世紀オーケストラの共演も十分あり得るため(CDを含めて)、今から楽しみにしたいところである。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『ピアノの詩人ショパンのミステリー(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カリスマ指揮者への道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ストラディバリウスをこの手に!(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『もうひとつのショパンコンクール(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホグウッドのモーツァルト』

by chikurinken | 2018-11-29 07:00 | ドキュメンタリー
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