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竹林軒出張所

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『母ちゃんのごはん』(ドキュメンタリー)

母ちゃんのごはん(2017年・SBC)
SBC信越放送 SBCスペシャル
NHK-BSプレミアム ザ・ベストテレビ2018

社会的弱者は
細い蜘蛛の糸に頼るしかないのか


『母ちゃんのごはん』(ドキュメンタリー)_b0189364_15551551.jpg 千葉在住のシングルマザー、けいこさんが、子育ても仕事もなかなかままならない状況を打ち破るために、長野県青木村への移住を決意して自分たちの生活を変えていく、その過程を追うドキュメンタリー。
 話は、千葉在住時代から始まる。子どもが小さい頃は、この地域で待機児童が多かったことから子どもを保育園に預けることができず、そのために仕事もできないという状態が続いた。子どもがなんとか保育園に通える状態になっても、仕事は夜遅くなり、しかも正社員になれないため収入も少なく生活が安定しないという状況が続く。子どもと接する時間も短く、一方で子どもについては、保育園や学校では問題を起こしていないが、食が細かったりして心配もある。
 こういった状況で、このけいこさん、将来が見えてこない現状を打開できるならばということで、地方への移住を検討する。いくつかの地方自治体は、シングルマザーを財政面などで支援しながらその地の介護職などに就いてもらうというような制度を用意しており、こういう労働者家族招聘制度を過疎対策として活用する自治体が現在増加中ということ。引っ越しにあたり一時金を出したり、数年間定住した時点で一時金を出したりという大盤振る舞いをする自治体もある。このような自治体の姿からは、すでに日本中で過疎が大問題になっている現状というのも浮かび上がってくる。
 その中でけいこさんが選んだのが長野県青木村である。青木村では一時金などは出ないが、村営住宅が安価に提供されることから、移住者は居住費を安く抑えられるというメリットがある。また子どもが行くことになる学校の環境も非常に良い。そういう理由でけいこさんは青木村を選んだわけで、しかもその後、製造業に正社員で採用されることも決まり、豊かではないが、まともに生活できる状況に少しずつ変化していく。このような変化の過程が紹介されて、番組は終わる。けいこさんの精神的な状態、そして母子の生活が徐々に真っ当な状態に改善していることも画面に映し出され、こういった(良い方への)状況の変化が窺われて、視聴者は見ていて安堵するという内容のドキュメンタリーである。
 このドキュメンタリーでは、シングルマザーという社会的弱者を取り巻く過酷な日本の現状が、彼ら弱者の視点からあぶり出されていくが、一方で彼らが居住地を変えるという大胆な行動を執らなければ改善が望めないという状況についても紹介されていく。こういうような状況に直接関係のない僕などの部外者も(話に聞いたりはしているが)、ドキュメンタリーによる疑似体験を通じてそういう事実があることに気付くわけで、同時にそういった現状に大いに驚いてしまうのである。それでもこのけいこさんについては、まだ何とか改善できるオプションがあっただけマシという考え方もできる。他の多くの困窮している人々もこういう制度を活用できることが望ましいわけで(過疎化、少子化という社会の変動に伴ってこういったオプションが増えていくのも皮肉な話だが)、多くの人々が利用できるよう、こういう制度をもっともっと広報して周知させるべきではないかとも感じた。細い蜘蛛の糸であってもないよりはずっと良い。もちろん社会全体が、弱者にも配慮できる余裕を持つよう転換するのが理想なのは間違いないのだが。
第37回「地方の時代」映像祭2017グランプリ受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『子どもの未来を救え(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『セーフティネット・クライシス(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『たんぽぽの日々(本)』
竹林軒出張所『グッドバイ・ママ (1)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『プルパン あずき菓子はオモニの愛(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-11-19 07:54 | ドキュメンタリー
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