永平寺 禅の世界(2018年・NHK)
NHK-BS1
現代風の演出が冴える映像ドキュメンタリー 曹洞宗の本山、永平寺の四季の移ろいと寺での雲水(修行僧)の修行を記録したドキュメンタリー。
全体的に詩的な映像が多く、説明的な要素は少なめである。ところどころに、寺の重役(と言って良いのかわからないが)の住職や雲水たちのインタビュー映像が交えられる。また、開祖道元の『正法眼蔵』の一節が随時流されるなど、禅への理解の助けにしようというアプローチも見受けられる。永平寺のドキュメンタリーは、これまでいくつか見てきたが、このドキュメンタリーは非常に現代風な演出で、きわめて洗練されている。映画の『ファンシイダンス』に出てきた雲水の日常の所作(洗練されていて個人的には好き)も紹介されていて、そのあたりも興味深かった。
さらに、曹洞宗の世界的な広がりも紹介され、全米のあちこちに点在するという禅道場の映像や、ミラノの曹洞宗の禅寺(永平寺公認)の修行の様子なども紹介される。ミラノの禅寺では、永平寺とほとんど同じような修行が修行者(雲水もいるようだ)によって行われていて、しかもこの寺を開いたのはイタリア人の禅僧で、そういう点が非常に意外で斬新な感じがした。いろいろなストレスにさらされて苦しんでいる現代人にとって、禅が自身を見つめ直すきっかけになるということで、禅つまり曹洞宗が世界的な広がりを持っているということなんだそうだ。
ただ僕の個人的な感覚で言うと、雲水の修行ということにまでなってしまうと、自身を見つめ直すというよりむしろ世間との関係を断つという方向性に向かうような気がして、これはもう現代社会とは異なる世界に行くといういわゆる「出家」になってしまい、方向性がまったく違うような印象を持っている。現代人が禅をやってみる程度であれば有益だと思うが、そこを極めていくということになると、俗世から離れる方向に行きはしないのかと、毎日禅を行っているというアメリカ人(おそらくIT関連の勤め人)を見て感じた。
それから、このドキュメンタリーには全編ナレーションが入っているが、テレビ放送ではナレーションの声が著しく小さく、ほとんど聞き取れないレベルであった。どういうつもりなのかわからないが、こういうナレーションならばないのと同じである。僕は字幕を表示してそれを読んでいたんだが、有意義なナレーションだと感じた。それならば聞こえるように出すべきではないかということになる。もっともこれはうちのテレビ環境のことだけかも知れないが。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『NHK特集 永平寺(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『何も求めず ただ座るだけ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『禅 × 21世紀(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ビギナーズ 日本の思想 道元「典座教訓」(本)』