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竹林軒出張所

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『“核のごみ”に揺れる村』(ドキュメンタリー)

“核のごみ”に揺れる村 〜苦悩と選択 半世紀の記録〜
(2018年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

六ヶ所村の激動の歴史を俯瞰

『“核のごみ”に揺れる村』(ドキュメンタリー)_b0189364_17575365.jpg 青森県六ヶ所村には、現在、使用済み核燃料処理関連施設が設けられているが、その中に使用済み核燃料貯蔵施設があり、そこには使用済み核燃料、いわゆる「核のごみ」が実際に貯蔵されている。ただしこれは一時施設という約束で建てられたものであり、半永久的に貯蔵する施設ではない。建設時に、最大50年間一時保管しその後永続的貯蔵施設にごみを移すという約束が国と青森県との間で結ばれている。ところが実際は、現時点で(当然だが)永続的貯蔵施設新規建設の候補地として手を挙げる自治体などなく、そのために永続的貯蔵施設を造る目途がまったく立っていない。ということで、現地の人々にとっては、なし崩し的にここが永続的貯蔵施設になるんじゃないかという懸念が生ずる。そのあたりの事情を検証するために、まとめられたのがこのドキュメンタリーである。当時この施設誘致に関係した人々も顔を出して、インタビューに応える。
 六ヶ所村は、かつては農耕牧畜業中心の田舎町で、住民の収入も全国平均よりはるかに少なく、出稼ぎ労働も多かった。しかも計画が進んでいた工業団地もオイルショックのために立ち消えになり、村自体がにっちもさっちも行かなくなっていた。そんな折に出てきた話が核燃料処理関連施設。当然、反対の声は大きく賛成派、反対派がぶつかりあい、村の内外で大いに揉めるが、国としても核燃料サイクルを進めるためには是非必要、村としても財政を再建するために必要という行政同士の利害関係で結局反対派の主張は圧殺され、強引に建設着手に至った。
 村はその後、補助金のために大いに潤い、しかも雇用も多数生まれ、かつての田舎町の風情は今ではない。住民も以前と違って、核燃料施設の存在を認めるという人が増えている。ただし永続的貯蔵施設となると話は別である。元々、一時的貯蔵施設として建設したこともあり、村の担当者もそのつもりであったと語る。国の方も、安易に約束をしたわけで、元々大したビジョンがあって約束したわけではなく、必要に迫られ(当時、フランスから処理済み核燃料が日本の近海にすでに送られていた)仕方がないからという「事なかれ主義」の役人根性で出した結論である。担当者自身もすぐに部署が変わるわけで、そうすると結局どこにも責任をとる人間がいなくなる。これが日本の行政のシステムである。そういうようなことが、かつての担当者のインタビューから窺われるわけで、特に当時科学技術庁長官だった田中真紀子がそのあたりを率直に語っていたのが大変興味深い。
 六ヶ所村の問題をテレビで取り上げたことも素晴らしいが、何よりこれまでの過程をまとめて提示してくれるというのが非常に良い。ETV特集ではときどきこういった「これまでのいきさつのまとめ」型の番組をやるが、どれも非常にわかりやすく有益である。なんと言っても、提示されている問題について考える際のよすがになる。今後もこういったアプローチを続けていってほしいものである。ただこういった日本の行政や政治の本質に関わるような問題は、本来は総合テレビでやって、広く国民の目に触れるようにするべき内容ではないかとも思うのだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『六ヶ所村ラプソディー(映画)』
竹林軒出張所『「最悪」の核施設 六ヶ所再処理工場(本)』
竹林軒出張所『核燃料サイクル 半世紀の軌跡(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『終わらない悪夢 前編、後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『核のゴミはどこへ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-11-03 07:57 | ドキュメンタリー
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