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竹林軒出張所

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『ソーシャルメディアの“掃除屋”たち』(ドキュメンタリー)

ソーシャルメディアの“掃除屋”たち 前後編
(2018年・国際共同制作、独gebrueder beetz filmproduktion他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

ネット検閲の実態と
SNSがもたらすさまざまな問題


『ソーシャルメディアの“掃除屋”たち』(ドキュメンタリー)_b0189364_17202956.jpg ソーシャル・ネットワークなどの現場では、暴力やポルノなど不適切なデータが常時公開されている。SNS企業や検索会社は、こういった不適切と判断されるデータを随時検閲しているが、実質的にそれを担当するのは孫請け企業の社員である。このドキュメンタリーでは、その孫請け企業のデータ検閲担当者数人に密着して、こういった仕事の問題点、ひいてはソーシャル・ネットワークの問題点まであぶり出す。なかなか意欲的なドキュメンタリーである。
 このドキュメンタリーに登場する孫請け企業はフィリピンに存在し、検閲を担当するのはモデレーターという人々。ただこのモデレーター、見たところ非常勤のバイトみたいな存在で、さまざまなデータについて削除するかどうか常時自ら判断しながら決定している。基準はそれぞれの企業レベルで定められているが、その最終判断はモデレーター各人に委ねられている。なんせ1日に2万件以上のデータを検閲しなければならない。ほとんど流れ作業のようになってしまう。しかも目の前に次から次へと出てくる画像や映像は、露骨な児童ポルノ、ISに代表される残虐な映像などで、中には心を病んでしまうモデレーターもいる(自殺者もいたとある関係者が語っていた)。
 一方で、モデレーターが検閲したデータには、決して興味本位の残虐画像ではないものもあり、中には政治的なメッセージを含むものやジャーナリズムに関わるものもあって、こういうものが削除されてしまうと言論の自由の問題にまで関わることになってしまう。このドキュメンタリーの中で実際に削除されていた画像には、沢田教一の有名な写真も入っていたぐらいで、モデレーターの無知を笑う程度で済ますことはできない問題も孕んでる。
 さらにその一方で、トルコなどでは反政府的な言動を削除するよう政府がSNSの各社に圧力をかけており、トルコ内で事業を展開するには、そういったデータを検閲することが求められる。ということで、これなどは悪しき検閲の例になってしまっているのである。
 もう一つの問題点は、ソーシャルネットワーク自体に内在する問題である。ソーシャルネットワークは、目立った発言をする者がフォロワーを集め存在感を増すという傾向があるらしく(僕は詳しいことは知らないんだが)、そのために、実社会では軽蔑され無視されるような過激な発言が注目を集めやすいというのである。これが成功した例が先のアメリカ大統領選挙で、そういった意味ではトランプはまさに時代の寵児ということができる。そしてそれについては、ソーシャルネットワーク各社はまったく対策を採ることができていない。そもそもこういった事業を始めた人々は、成功だけを望んでいたオタク技術者であり、社会的な影響力については何の判断も持ち得ないと、元関係者の一人は語っていた。
 僕自身は、現在の差別的な言動、右翼的な動向の原因がソーシャルネットワークにあるということにあらためて気付かされた点で、目からウロコであったわけで、同時にネット検閲の実態というのもよくわかって、大変有用なドキュメンタリーであったと思っている。前編、後編であわせて90分の大作ではあったが、見る価値は十分にあると思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『抑圧のアルゴリズム(本)』
竹林軒出張所『“フェイクニュース”を阻止せよ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『エルドアン “スルタン“への道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ネット自動広告取引の闇(ドキュメンタリー)』
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竹林軒出張所『“幸せ”に支配されるSNSの若者たち(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『データに溺れて…(ドキュメンタリー)』
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竹林軒出張所『私を“合成”したのは誰(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-11-02 07:20 | ドキュメンタリー
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