IS 狂気の内幕
(2018年・国際共同制作、仏CAPA PRESSE他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
司令官家族はセレブ風の生活を送っていた
イスラミック・ステート(IS)の勢力が、シリアやイラクをはじめ多くの地域から一掃されつつあるが、これはリビアでも同様。リビア北部の大都市シルトを占拠してやりたい放題をやっていたISも、包囲攻撃され、その結果その戦闘員の多くは戦死または逃亡した。廃墟と化したシルトだが、その後現地で、司令官の残したパソコンとスマートフォンが発見され、ISが集めていたデータが明らかになった。
パソコンには、ISのこれまでのさまざまな作戦やあるいは各種マニュアル(爆弾の作り方や自爆テロの方法など)が大量に入っており、彼らの活動の一端を覗くことができる。さまざまなテロ現場の、実行した側からの映像や処刑現場の映像なども多数収録されていて(一部紹介されていた)、きわめて生々しい。
また、司令官の妻のスマートフォンには、司令官との楽しい日々、リッチな生活が撮影されており、司令官の日常を垣間見ることができる。もちろんこの司令官の生活は、現地住民から多額の税金を徴収し、同時に現地住民の屋敷などの私有財産を接収した結果成り立つ生活で、言ってみれば山賊の家族みたいなものである。しかも従わない人々や反イスラム的と目された人々を公開処刑したりと人道的にも許されない所業がその根底にある。それでも妻という立場からは、こういった生活も既得権益と映るようで、楽しい日常を送っている映像が残されていた。だが、この妻と子ども達も結局は包囲攻撃されて建物もろとも爆破されてしまったのだった。ISの犠牲者の立場から見ると、因果応報ということになるのだろうか。
彼ら(つまり戦闘員に関わりのある女性と子ども)が包囲側から保護されるような映像もあったが、中には爆弾を抱えて自爆テロした女性もいて、手を差し伸べた側も多数の被害者を出す結果になっていた。どうにもやりきれない状況ではあるが、それを生み出したのがあの狂気の集団である。いまだに残党がどこかに潜伏して再生を目指しているという話もあり、決して予断はできない状態である。憎しみの連鎖を断ち切る以外に真の解決はないと思われるが、欧米諸国の方も強行に対処している現状では、こういった悲劇は永続的に連鎖しそうな勢いである。
なおこのドキュメンタリーだが、発見されたアラビア語の文書の一部がアラビア語で画面に表示され、それがにわかに英語に変わるなど、演出が非常に洗練されていたのも目を引いた。国際共同制作であるためか、随分手が(そして金も)かかっているという印象を受けたのだった。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『追跡「イスラム国」(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ISからの脱出(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『爆弾処理兵 極限の記録(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ホムスに生きる 〜シリア 若者たちの戦場〜(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『イスラーム国の衝撃(本)』