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竹林軒出張所

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『勝負 名人への遠い道』(ドキュメンタリー)

勝負 名人への遠い道(1981年・NHK)
NHK総合 NHK特集

古い演出が気になるが
面白い題材ではある


b0189364_21010236.jpg プロの将棋棋士になるには、養成機関である奨励会に通わなければならず、今のプロ将棋棋士は皆奨励会出身者である。奨励会は、6級から始まり最上位が三段。どこから入るかは、人によって異なるが、普通は6級から入って、リーグ戦を勝ち抜き少しずつ昇級していく。なおこの奨励会に入ること自体、かなりの難関で、全国から精鋭が集まって切磋琢磨しているというイメージで捉えると良い。最上位の三段の奨励会員は、三段リーグというリーグ戦を戦い、ここで好成績を収めると晴れて四段、つまりプロ将棋棋士になることができる。そのため、実力的にはほぼ同等だとしても、三段と四段の間には雲泥の差がある。この奨励会だが、実は年齢制限があって、その年齢に達する前に規定の段位に達しなければ退会しなければならない。そのため、この年齢制限を巡っていろいろな葛藤があり、そこでドラマが生まれるというわけだ。
 1981年に作られたこのドキュメンタリーは、年齢制限間近の1人の奨励会員、鈴木英春(えいしゅん)に密着するというもの。この鈴木氏、撮影当時30歳で、当時の奨励会には30歳までに四段に昇段できなければ退会という規定があった(現在は異なる)。つまり勝ち抜けなければ、これが最後の三段リーグになるという状況である。ちなみに当時、最強の名人だったのは中原誠で、33歳。この撮影の際は、名人戦(中原の防衛戦)を闘っていた。鈴木氏はかなり若い頃から奨励会にいたため、おそらく奨励会でも中原と顔を合わせているのではないかと思う。この栄光まっただ中の1人と崖っぷちの1人というのが好対照になっていて、そのあたりがこの番組の演出の妙である。
 ドキュメンタリー自体は、今ではあまり見られないような、ゆっくりで静かな映像が続く。説明が非常に少ないという印象で、ドラマであるかのような演出である。ただ少しやり過ぎという感もある。何しろ対局中の映像にスロー映像や接写を多用したりまでしている。
 で、結末を言ってしまうが、この鈴木氏、案の定というか予想通り、三段リーグで規定の勝ち数が得られず、プロ棋士を断念せざるを得なくなる。今までの人生のすべてをかけてきたプロ棋士の夢がなくなってしまい、当然のことながら、虚無の状態が続くという風になる。ただ、このドキュメンタリー、最後の最後になかなか粋な演出を用意している(ばらしてしまえば、鈴木と中原との対局)。
 なおこの鈴木英春氏、その後、アマチュア棋士のタイトルを取ったりして、アマチュア棋士の中では結構有名な人らしい。いろいろな戦法も編み出しているようで、今の将棋界にもそれなりの足跡を残しているようである。プロになるだけがすべてではないということがわかって面白い(プロ棋士の中にも冴えない人はいくらでもいる)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『聖の青春(本)』
竹林軒出張所『聖 ― 天才・羽生が恐れた男 (1)〜(7)(本)』
竹林軒出張所『ヒカルの碁(1)〜(23)(本)』
竹林軒出張所『将棋の解説者』
竹林軒出張所『将棋中継の聞き手』

by chikurinken | 2018-10-10 07:00 | ドキュメンタリー
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