ウンベルトD(1951年・伊)
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
脚本:チェザーレ・ザヴァッティーニ
出演:カルロ・バティスティ、マリア・ピア・カジリオ、リナ・ジェナリ
あまりに救いがない
これからどうしたら良いのか…
と思わず考え込んでしまう 『自転車泥棒』でお馴染み、イタリアン・ネオリアリズモの巨匠、ヴィットリオ・デ・シーカの作品の中でも随一と言って良いリアリズム映画。
年金暮らしの元公務員の老人、ウンベルトが主人公。現在一人暮らしで犬のフライクが唯一の相棒という状況だが、年金額が少ないため、アパートの家賃も滞りがちである。そのためにアパートの主からも追い立てを食らっているという設定。何とか追い立てを免れるために必要な額の金を集めようと奔走するが、なかなか集まらず。いろいろと画策するが、結局行き場がなくなってしまうという、まことに救いがないストーリーである。
戦後すぐのイタリアの世相を反映した(と思われる)スーパー・リアリズムの作品で、画像もストーリーも堅牢で非常にレベルは高いが、これほど救いがないと、ちょっと最後まで見続けるのが辛くなる。主人公がかなり切迫した状態になり、『自転車泥棒』同様、それが見ている側にも恐ろしい迫力で迫ってくる。この映画を見る場合は、生活に余裕のある状況でないと(あまりに身につまされて)楽しむことができないのではないかと思う。
かつてこの映画を見たときは僕自身まだ(前途のある)学生だったし、しかも国内的には割合余裕のある時代だったため、映画の内容はどこか他人事で「憐れな老人の話」ぐらいの認識しかなかったが、今回は、僕自身が主人公に近い年齢になっており、しかも世の中も何かのきっかけで転落してしまいそうな社会状況になっているため、見るのに相当な息苦しさを感じた。こういう映画を、余裕のある状態でゆったり見て、その上で社会のひどさを実感できるという程度の世の中にはなってほしいと、今回つくづく感じた。
今回見たのは、シネフィルというBSチャンネルで放送されたものだったが、映像が割合きれいだという印象を持った。もしかしたらリマスター版だったのかも知れない。なお、タイトルの『ウンベルトD』は、主人公の名前、ウンベルト・ドミニコ・フェラーリから取ったものである。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『無防備都市(映画)』竹林軒出張所『戦火のかなた(映画)』竹林軒出張所『冬構え(ドラマ)』竹林軒出張所『ながらえば(ドラマ)』竹林軒出張所『日曜劇場 幻の町(ドラマ)』