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竹林軒出張所

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『731部隊の真実』(ドキュメンタリー)

731部隊の真実 〜エリート医学者と人体実験〜
(2017年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

日本の恥ずかしい歴史

『731部隊の真実』(ドキュメンタリー)_b0189364_22022174.jpg 満州で軍事研究に従事していた大日本帝国陸軍の731部隊は、細菌兵器や化学兵器の研究を行っていたことで有名である。しかも捕虜を使って人体実験をしていたこともわかっていて、日本史における最大の恥部の1つになっている。
 しかし中には、この話自体が中国および連合軍の創作だなどと言う人々もいるらしい。当事者が当時の所業を語らず、なかったことにされるために、こういううつけた言動が出てくるわけだが、恥ずかしい行為を直視せずに無かったことにするなんてのはもっと恥ずかしい行為だと思うが。そこで、記録を調べたり、当時の裁判での証言の録音を明らかにすることで、何が行われていたか明確にしようではないかというのがこのドキュメンタリーの主旨である。
 このドキュメンタリーの大きなテーマになっているのが、京都帝国大学、東京帝国大学、慶應義塾大学などの有名大学の研究者が731部隊に多数参加していたという事実である。しかも彼らの多くは、敗戦時にいち早く帰国を果たし、その後は、その責を負うことなく、学界の権威として君臨したというんだから、恥知らずも良いところである。
 派遣した研究者が一番多かったのが京都帝国大学医学部で、当時医学部長だった戸田正三が、731部隊の石井四郎部隊長と旧知(石井自体も京都帝大卒である)で、その繋がりから自分の部下の研究者を多数派遣したといういきさつがあった。同時に陸軍から京大医学部に、その見返りとして研究費名目で多額の金額(現在の額で2億5千万円)が送られている。研究者の中には満州行きを拒む者(当時京大医学部講師、吉村寿人)もいたらしいが、戸田の恫喝により無理やり赴任させられたというケースもあるらしい(ただしこの吉村氏、帰国後結構高い地位に就いている)。
 現地では、防疫という名目で研究を行っていたが、実際は、ペスト菌やチフス菌を中国人(「マルタ」と称されていた元ゲリラ〈「匪賊」と呼ばれていた〉)に投与したり、凍傷を起こさせてその際の条件を調べたりなどという非人道的な実験を行っている。また細菌爆弾の開発なども行い、これもマルタに対して実際に使用している。
 このドキュメンタリーは50分の短いものだったが、こういった一連の所業が、ソ連による裁判の証言テープ(部隊員の声が残っている)や記録、それから現在日本に居住していて当時アシスタントとして部隊に参加していた人々のインタビューで明らかにされていく。731部隊の研究者についても、たとえば、細菌爆弾の開発に当たっていた731部隊第一課課長(研究班の責任者)の田部井和(かなう)など、実名が明かされていた。先ほども言ったように、戦後、何事もなかったかのように学界の権威になった研究者もいるわけで(田部井は戦後京大教授に就任、また戸田は戦後金沢大学学長に就任)、こういった連中の名前を明かすのは意義のあることだと思う。
 このようなドキュメンタリーは、ある意味「都合の悪いことはなかったことにし」その上「誰も責任を負わない」悪しき日本の風土に対する挑戦でもある。731部隊の所業は、オウム真理教が行っていた化学研究とも類似性を感じさせるが、一方はことごとく処刑され、もう一方は高い地位に就いているなどということが果たして公正なのか、そのあたりもいろいろと考えたいところである。
第55回ギャラクシー賞テレビ部門奨励賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『オウム 獄中の告白(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『人が悪魔に変わる時(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ノモンハン 責任なき戦い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『全貌 二・二六事件(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-09-22 07:02 | ドキュメンタリー
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