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竹林軒出張所

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『クワイ河に虹をかけた男』(ドキュメンタリー)

クワイ河に虹をかけた男(2016年・瀬戸内海放送)
監督:満田康弘
撮影:山田 寛、永澤英人
ナレーション:森田恵子

泰緬鉄道に残された恥

『クワイ河に虹をかけた男』(ドキュメンタリー)_b0189364_17471041.jpg 太平洋戦争の際、大日本帝国陸軍は、インド攻略作戦の一環として、ビルマとタイを結ぶ泰緬鉄道の建設を進める。インド攻略作戦は、中国への連合軍の補給路を断つという目的で行われたものだが、この泰緬鉄道建設には、連合国の捕虜や現地の労働者が動員された。しかし作業は過酷を極め、しかも劣悪な環境だったことから数万人が命を落とし、そのためもあって「死の鉄道」とも呼ばれているらしい。映画『戦場にかける橋』でクワイ河の橋が舞台になるが、あれも泰緬鉄道の一部である。
 その建設作戦に、英語通訳として参加したのが、このドキュメンタリーの主人公の永瀬隆という人。彼は当時、多くの人々の死を目の当たりにし、同時に大日本帝国陸軍が行った数々の非人道的行為を目撃してきたことから、戦後、贖罪のために活動するようになる。そのためタイに135回訪れた他、さまざまな国々、地域を訪れ、あるいは寺院を建設したりあるいは被害者に直接会って謝罪したりという活動を繰り返してきた。この贖罪の活動を20年近くに渡って追ってきたのがこの映画の監督の満田康弘、ならびに瀬戸内海放送である。これまでも、永瀬氏の活動についてまとめたドキュメンタリーが、テレビ朝日系列の『テレメンタリー』などで8回に渡って放送されてきたらしいが、この長期取材を1本の映画にまとめたものが、この作品ということになる。
 20年間に渡る活動を追っているため、永瀬氏の年齢も70歳台から、死去する93歳までに渡り、その間の活動も贖罪の他、寺院や慰霊碑の建設、奨学金の供与など多岐に渡る。永瀬氏のスタンスや活動は一貫しており、そこにはブレがない。本来であれば国がやるべき活動を、戦中の恥ずべき行いについて恥に感じない国に代わって、それを恥に感じる自分がやっている(永瀬氏の奥方の言葉)というようなものである。挙動に衒いや嘘がなく、やれることをやるという姿勢を貫いているため、見ていて気持ちがよい。もっとも謝罪に行っても受け入れられないこともあるということで、辛く感じるようなことも多かったようだ。ただ、この映画について言えば、8本の作品をつなげたためか、時系列がわかりにくいという難点がある。また2時間という上映時間も少々長すぎるように感じる。もう少し短くしてシャープな形でまとめることもできるのではないかと思う。
 我々のような一般人にはなかなか永瀬氏のような活動はできないが、我々の先祖にこういった恥ずべき過去があることは知っておくべきで、そのことを次の世代にも伝える義務があるのではないか、などどいう思いを新たにするドキュメンタリーであった。
World Film Awards 2018金賞他受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『戦場にかける橋(映画)』
竹林軒出張所『ビルマ 絶望の戦場(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『五島のトラさん(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-09-20 07:48 | ドキュメンタリー
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