彼のいない八月が
(1994年・テレビマンユニオン)
フジテレビ NONFIX
ある脳天気な男の生と死 映画監督、是枝裕和がテレビマンユニオン勤務時代に作ったドキュメンタリー。
エイズであることをカミングアウトした平田豊という人の生活に密着する作品。この当時、エイズであることをカミングアウトした人はいたが、同性愛による性交渉でエイズに感染したことを発表したのは、この人が最初らしい。そういういきさつで、製作者はこの人に関心を持ったという。また、実際に接してみると、非常にちゃらんぽらんで、なおかつ刹那主義的、快楽主義的であり、人好き、話好きな人だということがわかり、それで取材を継続するようになったということらしい。
この平田という人がカミングアウトしたのが92年で、その後94年に死去するが、ドキュメンタリーでは、この間の2年間に渡り彼に密着する。ただこのドキュメンタリーの構成が、94年8月(死去後)の時点から、彼の在りし日を回想するというような形式になっていて、どこかドラマ風である。その後の是枝氏の活動を示唆するかのようである。こういった類の死去ドキュメンタリーは、現在では割合見られるが、おそらくその最初期の作品と言っても良いのではないかと思われる。この平田氏の場合、どこか飄々として人生を楽しんでいるため、死について思いを馳せるという類の重みはないが、それでも免疫不全のために視力が失われたり、身体が衰えて動きづらくなったりという症状が出てくるため、それなりに考えさせられる素材にはなっている。ただこの闘病中も、旅行したり、宝くじを買ったりパチンコを楽しんだりという生活を送っており、個人的にはあまり親近感を持てないタイプの人である。従って、このドキュメンタリーを見て感情移入するというようなことはあまりなく、淡々と他人の死を見送ったという感じであった(こういう類の人って周りに結構いるよなぁと思う)。人の生死はもちろん重いが、だからと言ってすべての人の生死が自分にとって重大かというと必ずしもそうでないということなんだろうか。なおナレーションは内藤剛志が担当している。
★★★参考:
竹林軒出張所『五島のトラさん(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『最期のコンサート あるチェロ奏者の死(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『在宅死 死に際の医療(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『島の命を見つめて 豊島の看護師・うたさん(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『しかし… 福祉切り捨ての時代に(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『もう一つの教育 伊那小学校春組の記録(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『禅と骨(映画)』竹林軒出張所『新宿タイガー(映画)』竹林軒出張所『ナオキ(ドキュメンタリー)』