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竹林軒出張所

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『もう一つの教育 伊那小学校春組の記録』(ドキュメンタリー)

もう一つの教育 〜伊那小学校春組の記録〜
(1991年・テレビマンユニオン)
フジテレビ NONFIX

是枝裕和の
もう一つのドキュメンタリー代表作


『もう一つの教育 伊那小学校春組の記録』(ドキュメンタリー)_b0189364_15443473.jpg 映画監督、是枝裕和がテレビマンユニオン勤務時代に作ったドキュメンタリー。
 当時、文部省が新しい授業形態として、「総合学習」という、垣根を取り払った授業を導入しようとしていたが、それを実際に取り入れた学校(おそらくそのモデル校になったんではないかと思われる)を数年に渡って取材してまとめたのがこの作品である。フジテレビの深夜ドキュメンタリー枠、NONFIXで放送されたらしい。なんでも是枝氏がほとんど手弁当で、ホームビデオを使って撮影したという話である。ナレーションは一切なく、現場の映像とテロップだけで進行する。
 取材対象になっているのは長野県伊那小学校の3年春組(昭和63年当時)で、取材は昭和63年10月から平成3年3月まで行われている。この学級では、地域の酪農家から数年間、牛や馬を借り受け、それを育てるという試みを行っている。これが総合学習のテーマであり、動物を育てるという活動から、算数など他の授業にも結びつけるなど拡張性の高いアプローチをしている。酪農業に密接に繋がった授業が行われるということで、シュタイナー学校をイメージするが、印象はあれに近い。ヤマギシに近いという考え方もできる(竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』参照)。今風にいうならばアクティブ・ラーニングということになるのだろうか。いずれにしても、当時公立小学校でこれを積極的に行ったというのは、確かにかなり斬新である。
 実際生徒たちは、動物の世話を通じて、野外活動はもちろん、植物の分類(理科)、小屋の建設(図工)、意志決定(学活)、生殖の仕組みの調査(保健)なども行っていて非常に多角的であることがわかる。また、動物たちの身近な死に向き合うなどということも現実に出てくるわけで、小学校教育で是非取り入れてほしい「生命の学習」まで(結果的に)経験することになっている。
 これを見ていると、学校教育もこの学校のようにもっと自由で良いんじゃないかと思うが、もちろんこれは環境が整っているからできるわけで、すべての学校でこれをやるというわけにも行くまい。何より教員の数や資質の問題もある。それに現在では子供達の問題行動も以前より多いと言うし、なかなか一筋縄ではいくまい。ただある程度の自由さは、学校レベルで担保すべきではないかと感じる。現行のように役所が過剰に口出しせず、現場が責任を持って取り組める形式にすれば良い。役所が出てくるのは、問題が起こったときだけで結構。問題の責任を取るのが役所の仕事である。
 このドキュメンタリーに登場した子ども達がその後どうなったか、今何をしているか、このときの学習活動についてどう感じていたのか、自分の中に何を残したのかなどについても是非聞いてみたいところである。こういうところを追跡することで「総合学習」の成果や意義について総括できるんだから本来は役所がやるべき作業なんだろうが、役所の特性を考えたら期待はできないだろう。是枝監督などの関係者に『その後の”もう一つの教育”』も是非作っていただきたいものだと思う。
第9回ATP賞優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『夢は牛のお医者さん(映画)』
竹林軒出張所『みんなの学校(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『わたしをあきらめない(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『学ぶことの意味を探して(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『本当は学びたい(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』
竹林軒出張所『しかし… 福祉切り捨ての時代に(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『彼のいない八月が(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映画監督 羽仁進の世界(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-09-01 07:44 | ドキュメンタリー
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