ブレイブ 勇敢なる者 “えん罪弁護士” 前編・後編
(2018年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル
こんな弁護士がまだいるのだ 日本の刑事裁判での有罪率は99.9%にも上るというが、この事態が異常であることは火を見るよりも明らかである。「推定無罪」の原則からすれば検察側が容疑者の責任を証明しなければならないはずだが、実際の日本の刑事裁判の現場では、弁護側が無罪であることを証明しなければならないらしい。しかもそのハードルはかなり高く、少しぐらいの証明では簡単に一蹴されてしまう。現在の日本の刑事裁判の現場では「有罪であることを確認するだけ」になっていると言われるのも十分頷ける話である。いずれにしても無罪判決が出るのは1000件の刑事裁判でわずかに1件程度ということになっている。ある弁護士によると、一般の弁護士であれば生涯に1回無罪判決を引き出せるかどうからしいが、現在14件の無罪判決を勝ち取っている弁護士がいる。それが今村核という人で、この人がこのドキュメンタリーの主役である。
この今村弁護士、冤罪の疑いのある案件については、徹底的に調べ上げ、さまざまなデータを集めて、科学的なアプローチで無罪の証拠を積み上げる。しかも1つの証拠だけでは採用されない可能性が高いため、さまざまな方向からアプローチし、証拠を二重三重に積み重ねて、法廷に挑む。その執念たるや、周囲の弁護士も舌を巻くほどである。だが実際のところ、刑事事件の弁護ではわずかな報酬しか得られないため、収入は非常に少ないらしい。現在独身で、しかも親の遺産で買ったマンションに住んでいるため何とか生活ができているという状態らしい。だがこういう弁護士の姿は、清廉潔白に映り、第三者的に見ている分には大変好ましい。
とは言え、こういった真っ当な活動を行っている弁護士が食い詰めているという状況は明らかに異常であり、しかもほとんどが検察の言い分で判決が決まってしまうという日本の法曹界の現状も異常である。今村弁護士は、そういう状況に立ち向かいたいという意識でいるようだが、こういう問題は、本来であれば法曹界が(あるいは国といっても良いが)中心になって解決すべき事象である。1弁護士が巨大な問題に立ち向かっている様子は、ドンキホーテのようではある。だがしかし、その活動を認める人々は確実に増えてくるだろう。少なくともこういったドキュメンタリーが作られ、それが多くの一般人の目に触れるという状況は、改善への道筋に繋がるのではないかというような淡い期待も抱かせるのである。
第50回アメリカ国際フィルム・ビデオ祭シルバー・スクリーン賞
第54回ギャラクシー賞受賞
★★★★参考:
竹林軒出張所『雪ぐ人(本)』竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『眠る村(映画)』竹林軒出張所『正義の行方(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『袴田事件 58年後の無罪(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『エルピス (1)〜(10)(ドラマ)』竹林軒出張所『“冤罪”の深層(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『時間が止まった私(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『検事のふろしき(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『私は屈しない 特捜検察と戦った女性官僚と家族の465日(ドラマ)』