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竹林軒出張所

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『脳は回復する』(本)

脳は回復する 高次脳機能障害からの脱出
鈴木大介著
新潮新書

高次脳機能障害を「内側」から分析

b0189364_18165386.jpg 脳梗塞の後遺症で高次脳機能障害に陥ったジャーナリストが、自身の高次脳機能障害の経験を「自分の内側」からの視点で報告した本。
 著者の鈴木大介は、『最貧困女子』などの著書があるジャーナリストで、社会にうまく適用できない若者を中心に取材活動を続けてきた。彼らの中には発達障害を持っていて、他者とうまくコミュニケーションできない人々が多かったと回想する。ところが、自分が高次脳機能障害になってしまうと、他者とのコミュニケーションがうまくできず、今まで取材対象として接してきた人々と共通する症状が現れる。同時に自分の気持ちが周辺の人間に伝わりづらいことがわかってきて、彼らは実はこういう状態だったのかと実感することになる。もちろん、脳梗塞と発達障害では入口は異なるが、結局のところ、すべての神経伝達が速やかに行われず、そのために起こった脳内での神経伝達のタイムラグが原因ではないかと、自身の実感から結論付ける。
 著者は、退院後数年間、こういった症状に苦しめられるが、その後徐々に改善して(著者の推理によると、神経伝達機能がだんだんできあがってきたということらしい)、仕事にも復帰し日常的な生活もほぼ元通り遅れるようになった。ただしあの高次脳機能障害の経験は、かつての取材対象に対する本当の理解に繋がったようで、これまで彼らの病気について表面的にしか理解していなかったことにあらためて気付かされるきっかけになったらしい。同時に、この高次脳機能障害と、発達障害、自閉症、統合失調症との共通点を見出し、自分なりに原因、対処法を発見する。実際このあたりは非常に遅れた分野であり、これまで医師側からの(推測に基づく)記述しかなかったために、明確な対処法や治療が見つかっていない。到底真実に迫っているというレベルではなかったが、今回患者側の視点からこれだけ詳細に描写され、それに対する対処法まで提案されている。これは、臨床心理学の分野において非常に画期的な出来事と言えるかも知れない。
 記述は平易で、それにマンガ的な描写が多くかなりユーモラスではあるが、内容については、まさに新しい知見と言って良いようなもので、相当ハイレベルである。また記述がコミカルであることから、これが深刻さを緩和する結果になっていて、このあたりもこの著者の先見性を窺わせる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『脳が壊れた(本)』
竹林軒出張所『壊れた脳 生存する知(本)』
竹林軒出張所『奇跡の脳(本)』
竹林軒出張所『脳は奇跡を起こす(本)』
竹林軒出張所『再起する脳 脳梗塞が改善した日(本)』
竹林軒出張所『最貧困女子(本)』

by chikurinken | 2018-06-24 07:16 |
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