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竹林軒出張所

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『イヌイットの怒り』(ドキュメンタリー)

イヌイットの怒り
(2016年・加Angry Inuk Inc. / National Film Board of Canada)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

単なる価値観の押し付け……という
レベルではなさそうだ


b0189364_18281238.jpg アラスカの先住民、イヌイットのある民族は、アザラシを狩ってその肉を食べるという生活を永らく続けてきた。彼らは、狩ったアザラシの肉を隅から隅まで食べた後、その皮を加工し販売することによって、生計を立ててきた。それが彼らの伝統的な生活である。ところがアザラシの狩猟が制限されたり、「一般的な」職業に就くことが奨励されたりすることで、こういった伝統的な生活を送りづらくなり、これが彼らの貧困の原因になっている。しかも近年では、毛皮反対運動がヨーロッパを席巻し、それに伴って、動物愛護団体などから、アザラシの毛皮を売ることが罪悪であると告発されるようになった。要するにアザラシを捕獲するなという暗黙のメッセージである。EUがこのような告発を受け入れ、EU全体の方針として採用すれば、アザラシの毛皮を(最大の市場である)ヨーロッパに売ることができなくなり、金を得る手段がますます限られることになる。結果的にイヌイットの貧困はますます進んでいくことになる。現時点でこういう状況が存在するのである。
 一方的なものの見方によって他者の文化を否定し、結果的にその文化、生活を壊滅させていくという、このような所業は、数百年も前から繰り返し行われ、その結果多くの先住民族は、差別の対象になり貧困に陥ることを余儀なくされてきた。アイヌしかりアメリカ・インディアンしかりである。
 このドキュメンタリーの製作者は、元々この民族の出身であることから、一方的に告発される先住民側の意見を表明して、こういった現状を全世界に発信する必要性を感じた。つまり、ゴリ押しされる「正義」のカラクリを逆に告発するというのが、このドキュメンタリー製作の動機であり、実に純粋な正しいアプローチである。このドキュメンタリーの中でも、イヌイットの人々と製作者が、動物愛護団体と直接対話して、それぞれの主張をぶつけ合おうというスタンスで動物愛護団体にアプローチしようとするのだが、団体の方から拒否されるというような事実も明かされる。さらに、こういった団体の手口が巧妙で、どこか汚さを感じさせるような面も紹介される。最終的に、こういった動物愛護団体に、イヌイットの環境から利権を得ようとする企業が絡んでいる可能性なども指摘されていて、なかなか奥が深い(もちろん、これらすべては製作者側の視点である。団体側には別の言い分があるかも知れない)。
 マイノリティの立場に追い込まれ、偏った視点で一方的に非難される側から、マジョリティの側の不合理さを告発するという、きわめて正しい動機で作られたドキュメンタリーであり、個人的には、この作品ができる限り多くの人の目に触れ、彼らの主張に耳を傾ける人が増えることを望むものである。実際、このドキュメンタリーには非常に説得力があり、勝手な理屈を振り回すヨーロッパの「動物愛護団体」に対しては怒りを禁じ得なかった。捕鯨の問題とも共通点があると感じた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『クジラと生きる(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イルカを食べちゃダメですか?(本)』
竹林軒出張所『あるダムの履歴書(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『アマゾン 大豆が先住民を追いつめる(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『未知のイゾラド 最後のひとり(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-06-17 07:27 | ドキュメンタリー
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