ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『真珠の耳飾りの少女』(映画)

真珠の耳飾りの少女(2003年・英・ルクセンブルク)
監督:ピーター・ウェーバー
原作:トレイシー・シュヴァリエ
脚本:オリヴィア・ヘトリード
撮影:エドゥアルド・セラ
美術:ベン・ヴァン・オズ
衣装デザイン:ディーン・ヴァン・ストラーレン
出演:スカーレット・ヨハンソン、コリン・ファース、トム・ウィルキンソン、キリアン・マーフィ、エシー・デイヴィス

フェルメールの詩的要素が再現された
スナップショットのような映画


『真珠の耳飾りの少女』(映画)_b0189364_22152672.jpg フェルメールの肖像画『真珠の耳飾りの少女』がどういういきさつで描かれたかという、それだけのストーリーの映画。今回久々に見た。二度目である。
 原作は短編か中編の小説ではないかと思う。ストーリーについてはドラマチックな要素はあまりなく、フェルメール家の騒動や、そこに女中として仕える主人公のグリートが受けるセクハラやパワハラがドラマの盛り上がりの部分で、ほとんどは写実的な表現に終始する。ただし写実的であっても表現方法によっては詩が生まれる(竹林軒出張所『お葬式(映画)』を参照)。この映画は、まさに全編を通じて詩であり、フェルメールの絵画のような静けさをたたえた映像が随所に登場する。また有名絵画に似せたような映像も随時登場し、ちょっとしたパロディなのかも知れないが、こういった映像にも美しさが漂う。17世紀オランダの風俗も見事に再現されており、まさにフェルメールの世界に飛び込んだようなそういう映画である。
 このように僕は撮影、美術、衣装デザインを特に高く買っているが、ただいわゆる「美術」にあまり興味がない人にとって、この映画が面白いのかどうかは少々疑問ではある。とは言え、映像の美しさは、「美術」的な要素を超えて存在するのは事実であるため、そちらが堪能できれば十分楽しめるのではないかと思う。
 これまで美術関係の映画は数々見てきたが、この作品は最高レベルの1本と言える。同じように映像面で感心した美術映画といえば、印象派の絵画を再現したかのような『田舎の日曜日』があるが、この作品などはモネとルノワールを足して二で割ったような画家が主人公だったため、印象派的な絵作りにしたことは、この『真珠の耳飾りの少女』と同様、きわめて筋が通っていると言える。この映画のスタッフも、あるいはあの映画から感化を受けて同じようなアプローチを目指したのかも知れない。
2003年LA批評家協会賞撮影賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『ロスト・イン・トランスレーション(映画)』
竹林軒出張所『ブーリン家の姉妹(映画)』
竹林軒出張所『フェルメール盗難事件(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『レンブラント 描かれた人生(映画)』
竹林軒出張所『レンブラントの夜警(映画)』
竹林軒出張所『フェルメールに魅せられて(ドキュメンタリー)』

--------------------------

 以下、以前のブログで紹介した『真珠の耳飾りの少女』のレビュー記事。やはり同じようなことを書いている。

(2006年3月27日の記事より)
真珠の耳飾りの少女(2003年・英ルクセンブルグ)
監督:ピーター・ウェーバー
原作:トレイシー・シュヴァリエ
撮影:エドゥアルド・セラ
出演:スカーレット・ヨハンソン、コリン・ファース、トム・ウィルキンソン、キリアン・マーフィ、エシー・デイヴィス

 オランダの画家、ヤン・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)」を題材にしたトレイシー・シュヴァリエの原作の映画化。だが、原作ものを単に映像化したというレベルではなく、作り手がフェルメールの絵画に直に接近しているのがよくわかる。
 この映画の一番の魅力はやはり映像である。フェルメールの世界を映像でことごとく再現しており、フェルメール好きの人ならばあちこちでニンマリしてしまうだろう。構図やインテリアだけでなく(これだけでもなかなかなんだが)、光の具合も再現されている。特に驚くのは、フェルメールの絵のタッチ(マチエールというのかな)まで似ているということ。どうやって再現しているのかわからないが、輪郭を少しぼかして若干ハレーションを起こさせるような撮り方をしているが、これがフェルメールのタッチによく似ている。全編でこういう効果を出しているわけではなく、フェルメールの絵に似た構図の箇所でのみやっているので意図的なものだと思うが、正直これはすごい! 掃除のシーンでさえも、フェルメール絵画の再現になっている。また、バルビゾン派のフェルメール風とか、横長の印象派(浮世絵)構図のフェルメール風というようなものも出てきて、なかなか面白い。
 もちろん映像だけでなく、ドラマとしても人間の機微が描かれていて、スリリングな展開もあり、まったく最後まで飽きることがない。でもやっぱり、西洋美術好きにはたまらん映画だろうなと思う。
 余談だが、この映画に登場するフェルメールの奥方が、同じオランダのヤン・ファン・エイクの絵(「アルノルフィニ夫妻の肖像」)に出てくる人物によく似ており、こういうのも意図的だったんだろうかと気になった。
★★★★

by chikurinken | 2018-06-08 07:15 | 映画
<< こんにちは(牛の)赤ちゃん 『ポセイドン・アドベンチャー』... >>