みんなの学校(2014年・関西テレビ)
監督:真鍋俊永
撮影:大窪秋弘
編集:北山晃
ナレーション:豊田康雄
驚嘆! こんな学校が日本にあるとは……
学校の理想形
大阪市立大空小学校に長期密着したドキュメンタリー。この小学校、全校生徒220人の、こじんまりした創立わずか7年(撮影時)の学校。普通であれば、小学校を取材して何が面白いのかと感じるところだが、この小学校、普通と違っている。特別支援の生徒が30人近くもいて、その数たるや普通の学校の数倍、しかもそういった生徒も普通の生徒と一緒に授業を受けている。今の「普通の」小学校とは明らかに違う。
そのあたりは、この学校の校長、木村泰子氏の強力なリーダーシップの賜であることは、このドキュメンタリーを見ていてよくわかるが、その徹底した「子ども本位」の考え方は、他の教員やスタッフにも浸透しており、同時にこの学校を支える近所の住人の人々や保護者も積極的に教育に関わっていることがわかる。初等教育の理想を体現したような学校である。この学校を1年に渡って追い続けたのがこのドキュメンタリーなのである。
こういう学校だからなのかわからないが、他の学校で問題児扱いされていた子どもが転校してきたりする。この子ども達に対して周囲がどのように接するかというのも映し出されていて、校長と教員たち、まさに全員で体当たりでぶつかっていく姿が見られる。時には思い切り叱ったりするが、「子どものため」という視点が随所に見受けられる。一部の子どもにはかなりの問題行動もあるが、正面からこれを受け入れ、子どもを育てるという視点で接していく。これこそが「教育の原点」であり、日本にもこんな学校があったのかと驚くばかり。

なんといっても、子ども達の問題行動に校長が積極的に関わっているのが印象的である。一方で、新人の教員をビシビシ叱っていたりして、校長の厳しさも伝わってくる。あくまで「子どもが主役」というその視点が見えてきて気持ちいい。なお、この学校、特別支援の生徒が通常のクラスにいるため、普通の生徒たちもこういった生徒を支援したり援助したりする。実は、こういうことこそが教育面で一番重要であり、(支援する側の)子どもたちのためにもなるんではないかと思うが、今の教育現場みたいに個人主義的あるいは利己主義的な発想ばかりになってしまうと、なかなかこれを実現するのは難しいんだろうなと思う。もちろんこういうことを実現しようとすると、教員の負担が今以上に膨らむことはわかるが。だから、それを体現しているという点でも、この大空小学校のすごさがわかる。
なお、この木村校長、2015年に(おそらく定年で)退職している。この学校のその後も気になるところ。
平成25年度文化庁芸術祭賞テレビ・ドキュメンタリー部門大賞他受賞
★★★★参考:
竹林軒出張所『「みんなの学校」がおしえてくれたこと(本)』竹林軒出張所『学校の「当たり前」をやめた。(本)』竹林軒出張所『僕に方程式を教えてください(本)』竹林軒出張所『学校ってなんだ!(本)』竹林軒出張所『子どもたちに民主主義を教えよう(本)』竹林軒出張所『自律と尊重を育む学校(本)』竹林軒出張所『さらば!ドロップアウト(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『こんばんは(映画)』竹林軒出張所『聖職のゆくえ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『本当は学びたい(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『学ぶことの意味を探して(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『わたしをあきらめない(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『すべての子どもに学ぶ場を(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『私たちの未来を救って!(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『日本の教育を変える!(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『高校中退(本)』竹林軒出張所『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと(本)』竹林軒出張所『大人問題(本)』