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竹林軒出張所

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『あ・うん』(1)〜(4)(ドラマ)

あ・うん (1)〜(4)(1980年・NHK)
演出:深町幸男、渡辺丈太
脚本:向田邦子
出演:フランキー堺、杉浦直樹、吉村実子、岸本加世子、志村喬、岸田今日子、池波志乃、殿山泰司

ライターの作家性が存分に発揮されたドラマ

b0189364_22010329.jpg 向田邦子の代表作ドラマ。1980年にNHKの『ドラマ人間模様』の枠で放送された。向田邦子は少し前にNHKで『阿修羅のごとく』を発表しており、この作も『阿修羅のごとく』と同様に作家性の強い作品である。当時シナリオライターの作家性が重要視され始めた時代で、エンタテイメントのみではない、こういった文学的な作品も頻繁に放送されるようになっていた。
 文学的な要素は各回の副題にも反映されており、第一回「こま犬」、第二回「蝶々」、第三回「青りんご」、最終回「弥次郎兵衛」と象徴的なタイトルが並んでいる。優れた作家が自身の書きたいものを書ける、こういった環境があるということは、単に作家側だけでなく、視聴者側にとっても大変ありがたい有意義なことで、文学的要素を持つこういったドラマが作れない昨今の状況ははなはだ寂しい限りである。
 とはいうものの、エンタテイメントの要素がかくも少ないと、連続で見続けるというのが少々苦痛で、今回BSでまとめて放送されたものを録画して見たんだが、全部見終わるのにかなり時間がかかったのだった。見ていて面白いし質が高いのもよくわかるが、続きを見ようという食指が動かない。僕は放送時にこのドラマを見ていないが、たとえ第1回目を見ていたとしても、おそらく続けて見なかったんじゃないかと思う。
 向田はその後、TBSでもこういった単発ドラマを続けて発表していくんだが、こういった作品についても、DVDで見られる環境にはあるが実際のところなかなか見ようという気にならない。向田作品自体が、あまり僕の好みではないのだろう。評価はするが好みは別ということである。
b0189364_22011369.jpg さてこのドラマ、若い娘の視点で、昭和初期(昭和十年代)のとある家族の肖像を描くというもので、そのあたりは後のTBSの単発向田ドラマ群とも共通するテーマである。父(フランキー堺)、それからその父と異常なほど仲の良い男(杉浦直樹)の関係と、その父の友人が実は母(吉村実子)に思いを寄せているというような人間関係が描かれる。まさに「人間模様」のドラマである。同時に山師の祖父(志村喬)が出てきて家族を翻弄する他、主人公の娘自身も帝大の学生と付き合うようになるなど、家族模様が少しずつ動いていく様子が、非常に細やかに描かれていく。娘の視点であるため、ナレーションは娘役の岸本加世子が行っているが、ため息交じりみたいな切ない語り口で実に良い味を出している。岸本加世子は演技も秀逸で、このドラマの大きな魅力になっている。演技については他の面々も同様に上質で、テレビ・ドラマのレベルでは最高水準と言える。この時代のドラマのすごさがよくわかるというものである。
b0189364_22022123.jpg 全編バロック音楽が流れるが、テーマ曲はあの暗い「アルビノーニのアダージョ」。このドラマの雰囲気を規定している。この音楽の暗さがこのドラマに合っているかどうかは何とも言えないが、岸本加世子の語りも同じような雰囲気なので、作り手側はこういった雰囲気を求めていたのではないかと思われる。
 なおこの『あ・うん』だが、1989年に映画化されて、主役の3人を板東英二、高倉健、富司純子が演じた(監督:降旗康男)。もっともあれは翻案に失敗したひどい作と言える。僕は映画版しか見ていなかったために、ドラマ版も今まであまり見る気になれなかったが、ドラマ版の方が断然優れている。だが優れていたとしても、好きかどうかは先ほども言ったようにまた別の話なのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『続あ・うん (1)〜(5)(ドラマ)』
竹林軒出張所『父の詫び状(本)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく パートⅡ (1)〜(4)(ドラマ)』
竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』
竹林軒出張所『思い出トランプ(ドラマ)』
竹林軒出張所『胡桃の部屋 (1)〜(3)(ドラマ)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(映画)』
竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』

by chikurinken | 2018-05-03 07:00 | ドラマ
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