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竹林軒出張所

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『DNA捜査最前線』(ドキュメンタリー)

DNA捜査最前線(2016年・仏AB Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

DNA犯罪捜査の周辺がよくわかる

b0189364_19180006.jpg DNAを利用した犯罪捜査がどういうもので、どのように利用されているかを紹介する真摯なドキュメンタリー。総じてフランスの知見紹介ドキュメンタリーは、丁寧に内容を紹介するというアプローチのものが多く、BBCの同様の番組のように見ていて腹立たしくなることはない。このドキュメンタリーにもそれは当てはまり、DNAによる犯罪捜査の全体像を把握できるようになっている。
 人間のDNA上に、特徴的な繰り返しが何度か現れることがわかったのは1970年代で、しかもその繰り返しパターンが個人によって異なることから、指紋のように個人特定に使えるのではないかという発想が生まれてきた。犯罪現場には、体毛や体液などの物証が残されることが多く、そのためにこういった遺留品から抽出したDNAによって個人を特定することができるということがわかった。
 ただしDNA捜査にも問題があり、遺留品のDNAが完全な形で残っていない場合は、個人の特定についても慎重にならなければならない。実際日本でも、DNAが一致するという証拠で逮捕されたが結局誤認逮捕だったという事例が90年代に起こった(と記憶している)。特にDNA捜査の初期に、この科学操作を過剰に信頼したがためにこういった悲劇が起こっている。一方で、永らく収監されていた人がDNAを調べ直すことで冤罪であることが証明されたケースもある(このドキュメンタリーで紹介されている)。要は使いようということになる。
 また人のDNAは、さまざまなルートから混入する上、他人のDNAが混ざり合うことも日常的に起こりうるため、DNAの活用には細心の注意が必要だということも紹介されていた。一例として、ヨーロッパのさまざまな国の凶悪犯罪事件で同じDNAが検出されたことがあって、世界を股にかける凶悪犯罪者かと疑われたが、実は検出されたDNAは、鑑定に使われていた綿棒に付いていた(製造担当者の)DNAだったことが後に判明したのだった。この事例は、DNA捜査の難しさを示すもので、非常に興味深い。
 同時に、DNAで個人を特定するためには、その個人のDNAデータが捜査側にあることが前提になる。犯罪歴のある人物についてはこういったデータが残され、先日の広島の女子高生殺害事件(犯人が14年ぶりにDNAで特定された件)などはその好例になったわけだが、すべての個人のデータが採取されているわけではないため、そういう点で限界はある。一方、すべての個人のDNAデータを集めることにプライバシーの問題があることは言うまでもない。個人のDNA情報を一生懸命集めている国もあるようで、もちろんそういった政策は論外だが、しかしそのあたりがDNA捜査の限界にもなる。悩ましいところである。ともかく冤罪の解消に繋がるような利用の仕方をしてほしいものだ。
 こういうようなことが50分のドキュメンタリーで紹介されるわけで、情報の密度が高いことがおわかりいただけると思う。しかもそれが、見ていて負担になるようなものではなく、楽しみながら見られるような構成になっていて、そういう点でも非常によくできていると感じさせる。BBCやNHKに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいと感じる(彼らにはこういう意見は決して届くまいが)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-04-27 07:17 | ドキュメンタリー
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