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竹林軒出張所

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『砂川事件 60年後の問いかけ』(ドキュメンタリー)

砂川事件 60年後の問いかけ(2017年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

「砂川事件=統治行為論」で片付けられない

b0189364_16262520.jpg 1957年、東京都立川市の米軍基地で基地反対運動が展開された際、数人の学生が基地の敷地内に入ったという容疑で逮捕された(いわゆる「砂川事件」)。けが人や死人が出ることもない割合ありふれたごく普通の事件で、この事件も微罪扱いで釈放されるというのが一般的な見方であったが、東京地裁で行われた一審公判で無罪判決が出され、しかも米軍の存在が憲法違反とする憲法判断が示されたことから、大きな話題になった。
 憲法判断になったこともあり、検察側は、高裁を経ずに最高裁に跳躍上告するという異例の対応に出る。最高裁判決も異例の早さで下され、地裁判決を破棄し裁判のやり直しを行うよう命じられた。全判事一致の判決である。この判決では、安全保障などの高度に政治的な事案については、それが明白に違憲でない限り、裁判所が違憲かどうかの判断を行うことはできないとする、いわゆる統治行為論が採用された。考えようによっては裁判所が違憲立法審査権を放棄したとすることもできる。この「砂川事件」は、現在高校の現代社会の授業でも扱われ、生徒たちには「砂川事件=統治行為論」で憶えるよう教えられるらしい。
 ただこの砂川判決はその後、日本の公判において決定的な判例になり、同様の事案については裁判所が介入しないという悪しき伝統が作り上げられてしまった。そのため、今周りを見回すとわかるが、数々の違憲まがいの法律が成立しまかり通っている。そもそも現在、憲法自体がどの程度尊重されているかもかなり疑問なのではあるが。
 ところが2008年に、アメリカでこの事案についての公文書が発表されたことから話は少し変わってくる。要するに当たり前のように司法権力による判断とされていた「統治行為論」であるが、実は判決の直前に外務大臣と米大使、それから最高裁長官と米大使が会談しており、政治情勢(当時、岸内閣によって新日米安保条約の改訂が進められていた)に配慮した判決を出すことをアメリカ側に確約していたという事実が明らかになったのだった。つまり最初から出来レースだったというわけで、それこそ司法の長による司法権の放棄ということになる。この公文書の発表を受けて、当時の被告4人が再審請求を行った。関係者のインタビューを行いながら、こういった事情を丁寧に追いかけるというのがこのドキュメンタリー。内容は非常に濃密で、司法のあり方についていろいろ考えさせられる番組であった。当たり前のように高校で教えられる統治行為論は決して「当たり前」ではなかったのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『裁判百年史ものがたり(本)』

by chikurinken | 2018-04-23 07:26 | ドキュメンタリー
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