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竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『日本フィギュアスケート 金メダルへの挑戦』(本)

日本フィギュアスケート 金メダルへの挑戦
城田憲子著
新潮社

日本のフィギュアスケートの成功の秘密

『日本フィギュアスケート 金メダルへの挑戦』(本)_b0189364_19510941.jpg 10年ほど前だったと思うが、日本のフィギュアスケート関係者が海外の関係者から「日本のフィギュアはどうなっちゃったの?」とよく訊かれるようになったというような話を、新聞かあるいは雑誌かの記事で目にした。その頃、日本のフィギュアスケート界は多数のタレントを輩出し、男女ともいろいろな大会でことごとく上位を占めるような時代になっていた。その少し前の日本フィギュア冬の時代を知る人々からすると、確かにその頃(今もそうだが)の日本フィギュアスケート界の状況というのは異様であった。聞くところによると、スケート連盟が若年層の育成に力を入れるようになったためということだったが、詳細については(僕には)わからなかった。とは言え、その「育成」については興味が沸くところであった。やはりあれほど短期間で状況を劇的に変えたというのは、きっと何か要因があるはずで、「何かあらむ、やうのあるにこそ、あやしきかな」(宇治拾遺物語 巻11の6「蔵人得業猿沢の池の龍の事」より)という感じであった。
 そして実はその「育成」の仕掛け人が、この本の著者、城田憲子氏なのであった。この本では、日本のフィギュアスケート界が現在のように花開いた、その秘密が明かされている。要するに、城田憲子氏が、日本スケート連盟フィギュア強化部長に就任し、「日本のフィギュアスケート選手が金メダルをとる」ようにするために、強化システムを作り、スケーターを影に日に支えてきたことがその理由……ということになる。
 この城田氏だが、元々はフィギュアスケートの選手であった。結婚と同時に現役選手を辞めた後、先輩に乞われてスケート連盟に顔を出すようになり、そのうちいろいろな仕事を任されるようになる。とりわけ、国際大会であるNHK杯の運営、才能のある若いスケーター(伊藤みどり)の発掘と育成・支援、強化システムの構築、トップ選手のサポートなどの面で、数々の実績を上げていく。中でも伊藤みどり、本田武史、荒川静香、羽生結弦らに対する支援は(この本によると)出色である。一介の強化部長がこれほど個人のスポーツ選手に介入して良いのかというほどで、コーチを世話したり、スケート留学の手配をしたり、演技のどこを変えるべきと口を出したりとそれはもう想像以上である。フィギュアスケートというのは、コーチと選手だけで道を開くような個人スポーツだと思っていたが、決してそうではないということがわかり、そういう点が非常に意外だった。もっとも口だけでなく金も出しており(実際フィギュアには非常に金がかかるらしい)、この人自身がかなり身銭を切っているという状況も窺えるわけで、選手にとって良いかどうかはともかく、口を出すことが決してマイナスとは一概に言えない。実際、この強化部長の尽力で、日本の選手は男女ともオリンピックで金メダルを獲得しており、日本のフィギュアスケートの地位は、ここ20年で格段に向上している。
 この本では、そういった育成の過程が時系列で詳細に描かれ、著者が場合によっては母親、場合によってはマネージャー、場合によっては手配師となり、スケーターを支えている様子がわかる。何より、選手自身が望む「結果」をもたらしていることが、強化部長としての仕事の偉大さを物語っている。こういった育成方法が良いかどうかはにわかに判断できない上、これを他のスポーツ分野で応用できるかというと疑問にも感じる。何より城田氏のような情熱、それに才能は、どこにでもあるもんじゃない。そういう点でも、日本のフィギュアスケートの成功の最大の要因は、城田憲子の存在だったと言えるのではないかと、この本を読んで思うのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『フィギュアの採点はアンカリングの所産か?』

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 以下、以前のブログで紹介したフィギュアスケート関連の本に関する記事。

(2004年12月17日の記事より)
フィギュアスケートの魔力
梅田香子、今川知子著
文春新書

『日本フィギュアスケート 金メダルへの挑戦』(本)_b0189364_19520183.jpg 2001年8月アメリカ・デトロイトの球場で50人に「北米で一番有名な日本人は?」と尋ねてまわった。これが「まえがき」の冒頭の文章。「イチロー」という答えが多いかと思ったらさにあらず、イチローは3位(6票)、2位はオノ・ヨーコ(8票)。そして栄えある1位は、なんと佐藤有香! 36票。
 佐藤有香……ご存知だろうか。フィギュアスケートが好きな人は、幕張の世界選手権で優勝したあの「佐藤有香」を思い出すだろうが、それにしても70%もの人が1位にあげるとは。
 このように冒頭からいきなり驚きのエピソードが紹介され、次から次へと興味深い話が続く。フィギュアスケートがなぜ「フィギュア」という名前なのかとか、なぜ6点満点なのかとか、フィギュア史の話も面白い。フィギュアスケートに多少でも興味を持っている人はかなり楽しめるだろう。
 現在アメリカに住む梅田香子(自身のご子息もフィギュアスケートをしているとか)から見たアメリカのスケート事情や、元選手だった今川知子の体験的フィギュアスケート論は、知らない世界をかいま見させてくれる。
 今の日本の女子フィギュア界は、現在の女子マラソンなみにタレントが豊富である。次のトリノ冬季オリンピックでは活躍が期待できる。おそらく世間の耳目も集まるだろう。一足先にこの本でフィギュアスケート情報を集めるのも良いのでは。
 巻末に、6種類のジャンプについて写真入りで解説しているのも親切。
★★★☆

by chikurinken | 2018-04-11 07:50 |
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