ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『花園の迷宮』(映画)

花園の迷宮(1988年・東映)
監督:伊藤俊也
原作:山崎洋子
脚本:松田寛夫
撮影:木村大作
美術:西岡善信
音楽:池辺晋一郎
出演:島田陽子、工藤夕貴、野村真美、黒木瞳、名高達郎、内田裕也、江波杏子、中尾彬、寺田農

カメラはよく動き
島田陽子は体を張る


b0189364_20114249.jpg この映画が撮影された1987年、僕自身バイトで東映京都によく出入りしていて、その関係でこの映画の冒頭部分のシーンの撮影に1日だけ関わることになった(言うまでもないがこの映画は東映京都で撮影されている)。どういうシーンかというと、主演の島田陽子が、今は廃墟となった遊郭に現れ、吹き抜けの3階からエレベーターで1階に降りる間に、廃墟だったはずの遊郭がかつての華やかなりし姿に変わり、繁栄時の情景になるという長回しのシーンである。最初は1階部分に解体業者が見えたりするんだが(3階からの遠景)、1階に主人公が降りたときは着飾った男女が同じ1階フロアでダンスを繰り広げているという具合で、彼女が移動する間に時間を遡るというなかなか凝りまくったカットである。このカット、一切中断することなく5分以上続き、しかもそのまま、この映画の鍵になる登場人物たち(工藤夕貴、野村真美、黒木瞳、名高達郎ら)が現れ紹介されていくという、密度の高い映像になる。途中でNGを出したら、それこそこの長回しを何度も繰り返さなければならないという、キャスト、スタッフにとってはかなり荷が重いシーンである。
 このシーンの撮影の日、現場には、この短い間に背景を転換させるため、バイトが午前中から30〜40人ほど入れられていた。僕もその中の一人で、廃墟からゴージャスな遊郭への転換を人海戦術で行っていくという算段である。今だとCGを使って簡単にできたりするんだろうが、当時はすべて手作業である。学生バイトが、それぞれの担当区画に(カメラに映らないように)陣取って、監督の合図にあわせて背景を転換させていくという流れになる。この練習を何度か重ねた後、俳優を交えてのリハーサル、本番という具合に進んでいったように記憶している。で、やはりそれなりに時間がかかり、何度も取り直しを繰り返して、結局終わったのは夜の11時頃だった。映画というのはテレビの撮影と違ってさすがに手間をかけるものよと感心したのだった。それに何より、スタッフたちが実に楽しそうに仕事をしており、現場の士気が非常に高かったのが印象的だった。イヤー映画って本当に良いもんですねと感じたものである。
 さて、その冒頭シーン。一体どういうものができあがったのかわからないまま、これまでこの映画をずっと見そびれていた。そしてとうとう、万を持しての鑑賞ということにあいなったのだった、今回。30年ぶりである。
 映画作品として見てみると、このシーン、かなりインパクトがある導入シーンである。この冒頭シーンも(島田陽子を追って)カメラがよく動いていたが、他にも部屋を結ぶ導管の中をカメラが動くというようなシーンがあり、総じて撮影がかなり凝っていると感じる。また、遊郭内部の美術も非常によくできていて、セットの完成度も高い。シナリオも、ストーリー展開の上からは過不足なく、ストーリーを追うには十分である。こういったミステリー作品は、ともするとどういう風に進行しているのかがわからなくなったり、あるいはあまりに単純過ぎたりするきらいがあるが、そういう点では申し分ない。
 また俳優、特に島田陽子の演技がすごく、バケツで水をぶっかけられるわ頭を浴槽に浸けられるわ蹴られるわ殴られるわ(本当には殴られていないと思うが)で、顔もいびつに歪んだり、あるいは恐ろしげな声で叫んだりする。当時の島田陽子の清純なイメージが完全に覆されるような体当たり演技である。よくこんな仕事を引き受けたなという類のかなりの肉体派の役どころと言える。僕は最初のシーンの撮影時、島田陽子のすぐ横に控えていて、例によって清純なイメージのままの島田陽子だったんで、こんな映画であるとはつゆ知らなかった。今回見て、女優の凄みみたいなものを彼女に感じた。まったく恐れ入った。さすが国際派女優である。
 このように見所が多い作品なんだが、どうも竈焚き(内田裕也)の心情の変化がうまく描かれておらず(この映画の中で非常に重要な要素である)、そういう点で、終わった後に結構頭の中にクエスチョンマークが飛びかった。最後の方の収束方法も何となくうまく収めているように思えるが、やはり少し矛盾が残る。また時代背景も太平洋戦争中の横浜になっている(原作は戦後ということだ)が、そのあたりも冒頭のシーンと非常に折り合いが悪くなっていて、何だか整合性がない。終わってからよくよく考えてみると、あちこちがストーリー的に破綻しているという印象が残る。
 全体的に非常によくできた映画であるため、その辺を何とかうまくまとめ上げたら、グレードがさらに上がっていたのではないかと感じるような、そういう類の惜しい作品である。ただし、深く考えずに普通に見れば、目を留めるようなシーンも多く、十分楽しめる作品ではないかと思う。何より冒頭シーンだけでも楽しめるような気がする。ちなみに僕は、このシーン、4、5回見た。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『利休(映画)』
竹林軒出張所『劔岳 点の記(映画)』

by chikurinken | 2018-02-17 07:11 | 映画
<< 『いそしぎ』(映画) 『江戸の瓦版』(本) >>