反骨の外科医
(2016年・スウェーデンFasad Cine)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
エチオピアの地域医療に医療の本質を見た
スウェーデン人の医師、エリクセンは、スウェーデンの官僚的な医療に不満を持ち、エチオピアに赴任して、地域医療に携わっている。
患者は入れ替わり立ち替わりやって来て、中には身体が異常に腫れたりなどの珍しい症例を持つ人たちもいて、それを次々に捌きながら同僚の医師や看護師に割り当てて指示を出していく。外科手術もどしどし行っているが、何しろ先進国のように物品が揃っていないため、ありあわせの道具、たとえば自転車のスポークや電動ドライバーなどを駆使して代用している。エリクセン医師は、エチオピア出身の看護師の妻と一緒に病院を切り盛りしており、非常に充実した日々を送っている。これこそが医療の原点だというわけである。
彼によるとスウェーデンの病院では、書類書きなどの雑務ばかりで、医療行為にはろくろく携われず、医師たちもみんなうんざりしている。まるで官僚の仕事だと言う。その点、物資は乏しくとも、医療に携わっているという充実感を伴うエチオピアが肌に合っているということなのだろう。何より、身体が治った元患者がやって来て感謝してくれることが一番の喜びだそうだ。
そんな彼も、やがて派遣任期の10年が終わり、スウェーデンに帰国することになる。スウェーデンの医療界に復帰することには嫌気がさしており、結局医療現場から身を引くことになった。こうして先進国の官僚主義によって、僻地で必要とされる医師が一人、姿を消すことになったのだった。
エリクセン医師の活動がきわめてユニークであるため興味深く見続けることができる作品で、そのユニークな映像を通じて、地域医療や医療のあり方についてまでいろいろと思いを馳せることができるドキュメンタリーだった。なかなかの秀作である。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『島の命を見つめて 豊島の看護師・うたさん(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『武器ではなく命の水を(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ディア・ドクター(映画)』竹林軒出張所『メイド イン エチオピア(ドキュメンタリー)』