今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
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今年見た映画ベスト3(53本)
1.
『切腹』2.
『山猫』3.
『レディ・チャタレー』 映画のベストは、例によって二度目三度目の名画ばかり。特に目新しさはない。『レディ・チャタレー』が他の2本とちょっと毛色が違うが、これもセザール賞受賞作であるし、今さら僕がどうこう言おうが高い評価に変わりはあるまい。
『切腹』は、僕自身、日本映画の最高峰と思っている映画で、世界的にも評価は高い。第16回カンヌ国際映画祭のグランプリの最有力候補でありながら、急遽出品が決まった『山猫』に賞をさらわれたというエピソード(仲代達矢がある番組で語っていた話)も大変興味深い。この2本をここに並べた僕の遊び心も感じていただけたら幸いである。
今年見たドラマ・ベスト3(37本)
1.
『夏の一族』2.
『ライスカレー』3.
『レ・ミゼラブル』4.
『夕暮れて』5.
『奈良へ行くまで』番外.
『さらば国分寺書店のオババ』 今年も昨年に引き続き、日本映画専門チャンネルで倉本聰と山田太一のドラマがまとめて放送されたため、ほとんどはそこからの選択である。『ライスカレー』は倉本作品の最高峰だし、『夏の一族』も山田作品の最高レベルの1本であることを考えると、妥当な線の選択と言える。
変わったところでは『レ・ミゼラブル』だが、これは原作の味わいを忠実に再現した仏製ドラマで、優れた原作を忠実に再現すれば最高レベルの作品ができあがることを証明したという点で特筆に値する。
『夕暮れて』、『奈良へ行くまで』は今年見た山田ドラマの中でもっとも質が高かったということで選んだ。他の山田作品でもかまわないが、今年見た中ではこれが一番よかったかなというところ。
番外に入れたのが1981年のラジオドラマで、僕自身が若い頃これを聞いて大いに影響を受けたという作品。こういう古い作品をYouTubeでいつでも全部聴くことができるとは、随分良い時代になったものである。
こうして見ると、今回もほとんど見る(あるいは聴く)のは二度目三度目の作品ばかりである。目を奪われる新作ドラマは残念ながら存在しないというのが実情である。
今年読んだ本ベスト5(60冊)
1.
『天地明察』2.
『武満徹・音楽創造への旅』3.
『平安京はいらなかった 古代の夢を喰らう中世』4.
『あなたの体は9割が細菌』5.
『森の探偵』 普段はあまりフィクションは読まないが、今年は江戸時代の碁打ちである安井算哲に少々興味を持ったこともあり、彼を主人公に据えた時代小説『天地明察』を読んでみた。これが非常によくできており、なんと言っても語り口が良い。ストーリーも、なかなか面白さに気付きにくい部分(暦の作成)を実に巧みに取り上げていて、読み始めたらやめられない、しかも読後感も良いという立派な小説に仕上がっていた。作者はファンタジー小説などを書く人らしく、時代小説は余り多くない。この作品のスピンオフみたいな作品、
『光圀伝』もあり、これも読んでみたが、『天地明察』の方が断然できが良い。
『武満徹・音楽創造への旅』は、作曲家、武満徹の芸術、人生に、インタビューを通じて迫った本で、1人の芸術家の人生を執拗に解明していったという労作。500ページを越える大作だが、武満という偉大な人間の等身大の足跡がそこにあり、この本を前にすると身が縮むような心持ちさえしてくる。大作かつ秀作である。
『平安京はいらなかった』は、歴史のごく一部分をつつくような内容の本であるが、我々が学校で教えられている歴史がいかに一面的か思い知らされるという点で評価に値する。歴史観がコペルニクス的に転換する1冊と言える(かな)。
『あなたの体は9割が細菌』も同じく目からウロコの本で、現代人の体内環境が抗生物質のせいで激変している現状を告発する。これもやはり新しい視点を提供してくれるという点で、価値の高い本である。
『森の探偵』も、我々が持っている常識を覆してくれる本である。動物写真家の宮崎学のこれまでのさまざまな仕事を結集させたような本で、これも非常に価値が高い本なんだが、前にも書いたように聞き手がしゃしゃり出てくるのがかなり鬱陶しい。そういう点でもったいないが、それを差し引いても素晴らしい価値がある。我々の住むこの世界に対して、さまざまな示唆が得られること請け合いである。
今年見たドキュメンタリー・ベスト5(65本)
1.
『ホームレス理事長』2.
『平成ジレンマ』3.
『ヤクザと憲法』4.
『島の命を見つめて 豊島の看護師・うたさん』5.
『行 〜比叡山 千日回峰〜』 今年は東海テレビの秀作ドキュメンタリーが、これも日本映画専門チャンネルで一挙に放送されたため、それが中心のラインナップになる。他にも冤罪ものや司法ものに傑作があったが、今回は代表として、『ホームレス理事長』、『平成ジレンマ』、『ヤクザと憲法』の「衝撃の3本」をピックアップした。
『ホームレス理事長』は、理想主義に燃える不器用な実業家を主役に据えたドキュメンタリーで、ドラマみたいな内容である。結末があまりに予想外で、ドラマだったら絶対に受け入れられない。それに撮影する側が撮影される側に関わったり(あるいは撮影される側から働きかけがあったり)するのも斬新で、そういう面も特異で面白い。
『平成ジレンマ』と『ヤクザと憲法』は、我々の常識的なものの見方にクエスチョンを突きつける、まさにドキュメンタリーの鑑のような作品である。これこそドキュメンタリーの醍醐味というもので、そういった体験をさせてくれるものはそうそうあるものではないが、同じ東海テレビから2本そういう作品が出ているのはちょっとした驚きである。他にも
『裁判長のお弁当』、
『死刑弁護人』、
『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄』などの東海テレビ作品も同じようなハイレベルのドキュメンタリーで、東海テレビのドキュメンタリーは侮れないということを思い知らされる。
『島の命を見つめて』は、これからの高齢化社会を暗示するドキュメンタリーであると同時に、人の生と死に思いを馳せさせる作品。このドキュメンタリーを通じて発せられる人間の優しさ、素晴らしさが心地良い。
『行 〜比叡山 千日回峰〜』は古いドキュメンタリー作品だが、究極の仏教修行を映像に収めているという点で、一種の文化遺産と言うことができる。こういう作品がいまでも残されていることが、日本の映像界の良心の一端を示している。できれば、こういった作品も積極的に放送してほしいと思う。NHKだけでなく民放でもね。よろしくお願いしたい。
というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
ではよいお年をお迎えください。
参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』竹林軒出張所『2010年ベスト』竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』竹林軒出張所『2012年ベスト』竹林軒出張所『2013年ベスト』竹林軒出張所『2014年ベスト』竹林軒出張所『2015年ベスト』竹林軒出張所『2016年ベスト』竹林軒出張所『2018年ベスト』竹林軒出張所『2019年ベスト』竹林軒出張所『2020年ベスト』竹林軒出張所『2021年ベスト』竹林軒出張所『2022年ベスト』竹林軒出張所『2023年ベスト』