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竹林軒出張所

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『天才! 成功する人々の法則』(本)

天才! 成功する人々の法則
マルコム・グラッドウェル著、勝間和代訳
講談社

多くの人に均等に機会を与えることが
社会のためになるという主張
お説ごもっとも


『天才! 成功する人々の法則』(本)_b0189364_19043122.jpg アメリカで話題になっているマルコム・グラッドウェルの第3作目。マルコム・グラッドウェルは、元々『ワシントン・ポスト』の記者で、その後フリーのライターになったという経歴を持つライター。
 前著『ティッピング・ポイント』『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』と同様、こちらもさまざまな実験データを引用して、著者の論を展開していく。要は、成功した人々(本書では「アウトライアー」(際立った人)という言葉を使っている)は、特異な天賦の才能のせいでその地位を掴んだんではなく、文化的背景や数々の偶然が作用して、たまたま成功を勝ち取ったのだという主張である。ビル・ゲイツしかりオッペンハイマーしかりで、知性レベルが高いことや才能があることが必ずしもプラスに作用するわけではないということを、さまざまな例を挙げながら紹介していく。
 中でも、プロスポーツ選手の多くが、年度の早い時期に生まれているという話は説得力があって面白い。たとえば日本の場合で言うと4月1日生まれと翌年の3月31日生まれは同じ学年になるが、子ども時代のこの364日の成長の差(ほぼ1学年分)はかなり大きいため、さまざまなケースで4月1日生まれの方が良い成果を出す。結果的に選抜チームなどにも選ばれやすくなって、練習や試合などの機会も増える。どんな分野でも一流になるには10,000時間の修養が必要で、それを達成しやすいのは当然さまざまな機会が与えられやすい選抜された方になる。こうして、生まれた日時だけでも大きな差が生じてくるという。
 また、文化的背景も大きな要因で、地道にがんばることが美徳とされる社会(東アジア)の方が、10,000時間の修養を達成しやすいというような論もある。そしてそういった利点を有利に活用できた人々が、たまたま適切な時代に適切な機会を与えられた(これは偶然の要素が大きい)場合に成功を勝ち取るのだというのが、この本の主題である。
 多くはお説ごもっともで、今となっては取り立てて目新しい説はないが、事例が豊富に紹介されることもあって説得力がある。ただしどうも、自分の説に都合の良いデータばかり集めているんじゃないかという疑念は常につきまとう。これは他のグラッドウェルの本と共通である。とは言え、前2著よりもよくまとまっていて内容的にも面白いため、グラッドウェルの中では一番お奨めできる本かなとは思う。
 翻訳は勝間和代がやっていて、勝間和代ということで最初からあまり良い印象はなかったが、翻訳自体は割合よくできており、非常に読みやすくなっている(ところどころ意味が取りにくい箇所はあったが)。ただタイトルの「天才!」というのはちょっと違うんじゃないかという気はする。ちなみに原題は「Outlier」である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ティッピング・ポイント(本)』
竹林軒出張所『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい(本)』
竹林軒出張所『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する(本)』
竹林軒出張所『成功する人は偶然を味方にする(本)』
竹林軒出張所『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『「反復練習が上達を生む」の実証 - 「ひたすら一万回」』

by chikurinken | 2017-10-11 07:04 |
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