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竹林軒出張所

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『ねてもさめてもとくし丸』(本)

ねてもさめてもとくし丸 移動スーパーここにあり
水口美穂著
西日本出版社

丁寧な作りと著者の人間性が魅力

b0189364_07381503.jpg 「とくし丸」という名前の、ド派手な移動販売車がうちの近所にも来るんだが、「とくとくとーく とくしまる」という妙に明るい音楽が流れて、なかなか鮮烈な印象がある。僕は田舎で育ったのであの手の移動販売車には馴染みがあるが、今の時代はまた、かつてと異なる需要があるらしい。というのも、今の時代、地域の小規模の商店がコンビニチェーンによって駆逐されてしまったため、限界集落に住まうお年寄りは買物すらままならなくなっているというのだ。このような地域では移動販売車が人々に買物の機会を提供することになるため、こういった移動商店は福祉の立場からも重要性が出てくる。
 で、あの「とくし丸」も実は一種のチェーン事業で、近所の大手スーパーと提携しながら、そのスーパーの商品を預かる形で販売するというシステムになっているらしい。名前から想像できるように徳島出身の人(住友達也って人、竹林軒出張所『あわわのあはは 徳島タウン誌風雲録(本)』参照)が始めた事業で、とくし丸本部と地域のスーパーがロイヤリティ契約を結び、さらに地域のスーパーと、販売を担当する個人事業者が契約を結ぶという形態で運用される。スーパー側は商品の販路を拡大できるというメリットがあり、その見返りとしてとくし丸にロイヤリティ料を支払う(3万円/月)。個人事業者は、朝、スーパーで必要な分だけ仕入れを行い(買い取りではないため商品はスーパーに返却可能)、それを一定のルートに従って販売し、売上の17%を収益として得られるという仕組みになっている。がっぽり儲けをさらっていくコンビニチェーンに比べるときわめて良心的なシステムであるが、これはとくし丸本部の考え方に福祉事業という発想があるためで、だがしかしこんなんで本部はやっていけるんだろうかとも思う。ちなみにこの本の執筆時点で全国にあるとくし丸の事業者は200人(つまり200台の移動販売車)ということらしい(単純計算すると600万円/月の収益ということになる)。なお個人がこの事業を始めるにあたり、とくし丸仕様の車両を用意しなければならず、それに350万円かかるらしい。個人事業者としてはこのあたりが最大のハードルで、しかも仕事も結構激務のようだが、販売や営業に向いた人であれば、それなりに良い仕事なのではないかとこの本を読んで思う。なおこの本では、ここまで述べたロイヤリティ関連のシステムや費用が詳しく書かれているので、諸々の事情は非常によくわかる。少なくともコンビニ事業に見られるような、個人事業者がエラい目を見るというシステムではなさそうなのは確かである。
 このようなシステムで個人事業者としての活動を始めた京都の女性が、ブログで綴った「とくし丸奮戦記」がこの本の元になっており、客との触れあいや家族、スーパー担当者、とくし丸本部などのサポートが率直に書かれている。この著者、販売業が天職であるかのような人で、客との触れあいが楽しくてしようがないらしい。そのウキウキ感は率直な文章を介して読者にも伝わってくる。同時にそういうような環境で商売できるとくし丸のシステムも評価に値すると感じる。地域の人々にも歓迎されているらしく、ものをもらったりトイレを借りたりとか人と人との交流が、読んでいて大変心持ちが良い。元々はブログの文章であるが気持ちの良い本に仕上がっている。
 またこの本で一番感心したのが本の作りが非常に丁寧であるという点である。校正がしっかりしているのは当然だが、本のたたずまいが非常に良い。「ねてもさめてもとくし丸」というタイトルも秀逸で、イラストがまた良い。装丁については、とくし丸の販売車のデザインをした人がやったらしいが、(当然だが)とくし丸の雰囲気が再現されていてこちらも良い味を出している。昨今雑に作られた本がやけに多いが、この本については丁寧さがとても目を引く。それがまた著者の人柄を反映しているようにも映るわけで、こういう丁寧さは出版事業には大切である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『あわわのあはは 徳島タウン誌風雲録(本)』
竹林軒『百円ショップを巡りながらこう考えた』
竹林軒出張所『低価格時代の深層(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『地方発ドキュメンタリー(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『コンビニオーナーになってはいけない(本)』

by chikurinken | 2017-09-26 07:38 |
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