風になれ鳥になれ(1998年・NHK)
第1話「山からの帰還」
第2話「加害者たち」
最終回「ふたり」
演出:黛りんたろう、加藤拓
脚本:山田太一
音楽:川崎真弘
出演:渡哲也、高嶋政伸、田中好子、坂上二郎、富田靖子、山田吾一、小林恵、草野康太、川上夏代、日下武史、梶原善、村井国夫、根岸季衣、倍賞美津子
放送時見たという記憶だけがあった 全3話構成で、ストーリー設定は一貫しているが、それぞれの話ごとに独立したエピソードが盛り込まれるという『男たちの旅路』方式、あるいは
『タクシー・サンバ』方式の山田ドラマ。
舞台がヘリコプター運用企業というのもなかなか意外で、目の付け所が良いのは山田太一らしい。今のドラマだったらこの舞台設定だけでそれなりのドラマに持っていかれそうだが、山田ドラマではそれだけで終わらない。いろいろな問題をかかえた人がやってきて、いろいろと問題を起こす。受け立つ側、つまりヘリコプター会社側の人々も、それぞれ大なり小なり問題をかかえていて、こういったトラブルメーカーたちとシンクロしていく。非常に良く練り上げられたストーリーで、しかも山田ドラマらしくセリフに説得力があり、また面白さもある。会話劇のようなセリフが多く、セリフがつまらなかったら到底見ていられないが、どのセリフも味わいがあるので、まったく退屈しない。第1話では、日下武史が長ゼリフで老後の生活の絶望状況を滔々と語るが、舞台俳優、日下武史の面目躍如という素晴らしい演技。これに応戦するのは渡哲也で、『男たちの旅路』の吉岡司令補ばりに「語る」。良いシナリオである。脇の山田吾一のセリフも良い。
第2話は、親子関係などが持ち込まれ、これも重いテーマであるが、(問題が解決するわけではないが)気持ちの良い終わり方をする。かなりいろいろな要素が持ち込まれて、下手をするとゴチャゴチャでとりとめがなくなるが、そつなくまとめているのは脚本家の技量である。
第3話は、ちょっとばかりリアリティを欠いたストーリーで、少々残念。演出もありきたりで少したわいない感じさえする。さすがに傑作を3話並べるのは難しかったか。とは言え、第3話も決してダメではないんであって、第1話、第2話がよくできているため少々見劣りがするという程度である。
キャストは、山田ドラマには珍しい面々が多く、渡哲也、田中好子、坂上二郎が過去1、2回出演している程度ではないか。ベテランの山田吾一、日下武史、村井国夫あたりは、実力者であるにもかかわらず今まであまり山田ドラマには絡んでなかったわけで、それを考えるとこの頃になって初めて(かどうかわからないが)出演するというのも逆に珍しい感じがする。とは言え、どのキャストも好演で、演出も素晴らしい。第1話の山のセットは少しチャチだったが。
ここのところ、CSの日本映画専門チャンネルで、毎週のように山田ドラマを放送していて、定期的に(ビデオではなく)テレビ放送で山田ドラマにアクセスできる環境があるわけだが、これだけのグレードのドラマを毎週見られるという状況を思うと、なんだかすごく贅沢な気分がする。もちろんこれまで結構DVDに撮りためているし、買ったDVDもあるわけで(しかもまだ見ていないし)、そういう想いは少し矛盾していると言えるんだが、それでもしっかりしたドラマを定期的に見られるというのは非常に贅沢だと感じる。それは今みたいなドラマ不毛の時代だからこその感慨なのかも知れない。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『タクシー・サンバ (1)〜(3)(ドラマ)』竹林軒出張所『夏の一族 (1)〜(3)(ドラマ)』竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』