夏の一族 (1)〜(3)(1995年・NHK)
演出:深町幸男
脚本:山田太一
出演:渡哲也、竹下景子、宮沢りえ、加藤治子、藤岡琢也、柄本明、永島敏行、大野雄一、森本レオ、柳沢慎吾
結局『冬の一族』はなかった
山田太一の『一族』三部作(『春の一族』、『秋の一族』、『夏の一族』)の最後の作品。このドラマはこれまで3回くらい見ていて、何度見てもセリフのうまさに感心する。それに複数のプロットを巧みに組み合わせた重厚な構成にも感心する。山田太一の最高傑作の1本と言える。
自動車会社の設計部門で長年設計に関わっていた中年男(渡哲也)が、ある日突然販売所(つまり売る方)に出向になった。名目的には出向ではあるが、実質的には肩たたきということで、それでも仕事にしがみついて、上司(藤岡琢也)のいじめにも負けずに真面目に取り組む……というのが1つのプロット。この男の家族は一見したところ割合平穏に過ごしているが、娘(宮沢りえ)は妻子持ちの男と付き合っているし、妻(竹下景子)は夫に多少不信感を持ちながら昔の恋人にしきりに誘われたりしていて、こちらも少々危ない感じ。さらにまた主人公がかかわる不登校の中学生、主人公を育てた血のつながりのない「姉」(加藤治子)などとの間にもサブプロットが発生して、かなりいろいろなストーリーが盛り込まれているが、これがまた実にうまいこと調和している。それぞれの人間関係に強い繋がりがあってそれが不自然ではないため、現実性があり、人間関係にリアルな安定感がある。そのためか構成に隙がないように感じる。

先ほども少し触れたが、このドラマは特にセリフが優れていて、全3回のドラマのあちらこちらに名ゼリフが散らばっている。またそれぞれのキャラクターがもれなく非常に魅力的で、利害が絡んで嫌な面を見せたりしはするが、それでも人間らしさが出ていて、大変気持ちがよい。それぞれのキャストが良い仕事をしているのは今さら言うまでもない。
ただ難がないわけではなく、特に第3回は、途中からオカルトが入って
『異人たちとの夏』みたいになるのは、あくまでも嗜好の問題ではあるが、いただけないと思う。必然性があると言えばいえるし、これも「ブラザー軒」みたいな1つのエピソードと考えればよいのではあるが、そっち方向には持っていってほしくなかったと感じる。また第3回は、セリフで語るシーンが非常に多かった。ただそのセリフの内容にはインパクトがあるので、まったく飽きたりすることはないが、第1回、第2回がドラマとしてあまりによくできていたため、第3回はやや平凡な感じがしたのが残念。
とは言うものの、これだけの作品は、いかに山田太一といえど、そう何作も書けるものではないと思う。
『今朝の秋』同様、日本のテレビドラマの最高到達点と言えるような作品であることは間違いない。
★★★★参考:
竹林軒出張所『春の一族 (1)〜(3)(ドラマ)』竹林軒出張所『秋の一族 (1)〜(3)(ドラマ)』竹林軒出張所『風になれ鳥になれ (1)〜(3)(ドラマ)』竹林軒出張所『男たちの旅路 第2部「冬の樹」(ドラマ)』竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと(本)』竹林軒出張所『二人の世界 (1)〜(26)(ドラマ)』竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『今朝の秋(ドラマ)』竹林軒出張所『異人たちとの夏(映画)』