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竹林軒出張所

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『裁判長のお弁当』(ドキュメンタリー)

裁判長のお弁当(2007年・東海テレビ)
監督:齊藤潤一
撮影:板谷達男
ナレーション:宮本信子

一裁判官の仕事から
日本の司法制度の構造的な問題点をあぶり出す


b0189364_19243675.jpg 名古屋地裁の裁判長に密着して、世間にあまり知られていない裁判官の仕事や働きぶりなどにスポットを当てるドキュメンタリー。
 これまで裁判官の日常が映像で紹介されるようなことはほとんどなかったらしいが、さすが東海テレビ、裁判所に取材を申し込んでみたということらしい。裁判所側も、開かれた司法を目指していたためかどうかわからないが、条件付きでOKを出したということで、この辺は放送局側にとっても予想外だったようだ。条件というのは、裁判官の家庭での様子は撮影しない(妻子に危害が及ぶ可能性があるため)、パソコンのモニターに映っている判決書の草稿は撮影しない(事前に判決が漏れる可能性があるためだろう)、裁判官同士の合議(判決をどうするかの話し合い)は撮影しないなど。どれもまあ筋が通っているが、合議の様子は見てみたいところではある。
 さて、今回撮影対象になったのは、天野裁判長という人で、何でもくじで外れて選ばれてしまったということらしい。この裁判官、早朝から夜遅くまで勤務していて、そのために昼食用と夕食用の2種類の弁当を持っているのだ。一般的に裁判官は、年間400くらいの事案に対して判決を書かなければならないらしく(しかもその数は増えている)、相当な激務であることは間違いない。
 このドキュメンタリーでは、退官した別の裁判官にも取材していたが、その裁判官は家に帰ってからも数時間仕事をしていたという。何でも過労死した場合に備えて証拠を残すため、仕事時間をメモしていたらしい(幸い過労死せずに退官できた)。背景として、判決の量をこなすのが裁判官の評価につながるという現状があるらしい。
 また一方で裁判官は、人付き合いも非常に限定されたものになる。家族は官舎に住み、官舎の家族とのつきあい以外、近所づきあいはほとんどないという。これはたとえば知人ができた場合、その知人を裁判で裁く可能性が出てくるためで、意図的に接触を避けているということなんだそうだ。このことが、裁判官が世間を知らないというようなことにも繋がり、世間の常識とかけ離れた判決が出される原因にもなっている(らしい)。
 この作品を製作している東海テレビは、これまで冤罪を取り上げたドキュメンタリーを数々作っていることもあり、なぜ間違った判決が出され冤罪が生み出されるのかという問題に真剣に取り組んでいる。そのせいか、このドキュメンタリーでは、問題意識が明確で、その原因まではっきりと指摘している。つまり仕事量に比べ裁判官の数が少なすぎること、(最高裁判所を頂点とするヒエラルキーのせいで)裁判官の独立性が保たれていないこと、そのために斬新な判決を出すことが左遷につながることなどが、諸悪の根源、冤罪がなくならない原因であると指摘しているわけだ。
 1人の平均的な裁判官の仕事姿を追うことによって、日本の司法制度の構造的な問題点を明らかにすることができているわけで、これはもうドキュメンタリーの鑑である。演出は淡々としていて、一見するとほとんど『はたらくおじさん』であるが、その実、非常に強力なメッセージ性を秘めている。大変貴重なドキュメントと言って良い。東海テレビのドキュメンタリーはやはりすごい。
第45回ギャラクシー賞大賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失った兄(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『光と影 光市母子殺害事件 弁護団の300日(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『検事のふろしき(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ホームレス理事長(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2017-06-20 07:24 | ドキュメンタリー
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