バシャール・アサド 〜独裁と冷血の処世術〜
(2016年・仏ILLEGITIME DEFENSE)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
バシャール・アサド概論 シリアに君臨するバシャール・アサド大統領について紹介するドキュメンタリー。
シリアに長年に渡り独裁者として君臨したハーフィズ・アサドが2000年に死去し、その後継として指名されたのが二男のバシャール・アサド。当初は力量不足という見方もあったが、イギリス留学の経験があるなど国際感覚を持つ新しい指導者として欧米からは歓迎を受けた。
折しもアラブの春の旋風がシリアにまで及び、反政府勢力が力を付けてくる。しかもアサド家は、シリアでは少数派のシーア派アラウィー派であるため、(バシャール本人の思惑とは異なり)多数派の国民からの信任が得られなかったこともあり、次第に反動化していく。反政府勢力だけでなく国民に対して武力を行使するようになり、あげくに民間人に対して化学兵器を使用するなど大弾圧を繰り返すようになる。このため、シリア国民だけでなく、欧米諸国からも反発を受けることになる。結果的に外国からの支援を受けた反政府勢力が力を伸ばしていき、バシャール政権の命運が尽きるのも時間の問題と考えられるようになった。
そんなときバシャールは、隣国のイラク、そしてシリア国内でも勢力を伸ばしてきたISを利用し、バシャール政権を、この凶悪テロリスト組織から世界を守るための防波堤と位置付けるような印象操作を国外に対して展開するようになる。これが奏功したのか、バシャール政権はロシアなどの支援を受けることができ、それがために今でも一定の勢力を保つことができている……これが現状である。ただ一説によると、生命線であるISに対して裏で武器供与などの支援すら行っているという話もある。また、現在バシャール政権が支配している領域もシリア国内の半分以下という有様で、今後の展開は予断を許さない。そういった状況を紹介していくドキュメンタリーがこれである。
一種の報道番組ではあるが、状況を整理して非常にわかりやすく紹介しているため、背景がよく把握できる。特にISとの関係はちょっと予想外で(あるいはすでに報道されていたことなのかも知れないが)、個人的には目を開かれた思いがした。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『イスラーム国の衝撃(本)』竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『追跡「イスラム国」(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『“アラブの春”が乗っ取られる?(ドキュメンタリー)』