チャタレイ夫人の恋人(ドラマ版)(1993年・英)
監督:ケン・ラッセル
原作:D・H・ロレンス
脚本:マイケル・ハジャッグ、ケン・ラッセル
出演:ジョエリー・リチャードソン、ショーン・ビーン、ジェームズ・ウィルビー、シャーリー・アン・フィールド
BBC製作の「官能大作」
D・H・ロレンスの問題作『チャタレイ夫人の恋人』を全4回のドラマに仕立てたもの。これはいわゆる「オリジナル完全版」で、劇場公開用に半分くらいに短縮したバージョンもある。
『チャタレイ夫人の恋人』と言えば大胆な性描写が有名で、本国英国でも出版は永らく見合わせられていたらしい。本邦でも伊藤整の翻訳が発禁処分になって、裁判でその正否が争われることになったのは有名な話(いわゆる「チャタレー裁判」)。もっとも性的な表現については時代を経るに従って多くの国ですっかり解禁されてしまったため、少なくとも文学の世界では、今となってはどこが問題なのかわからないくらいの表現である。猥褻裁判のバカバカしさが時代を経て明らかになったというわけ。
『チャタレイ夫人の恋人』について言えば、性描写ばかりが脚光を浴びているが、実際には英国の階級問題についても鋭く追究している書であるため、文学的価値は今でも存続している。ただしドラマや映画で取り上げられる場合はどうしても「官能大作」みたいな扱いになるのは致し方ないところ。
このドラマ版『チャタレイ夫人』は、元々どういう形態で放送されたかわからないが、天下のBBCが製作したもので、原作をかなり忠実にドラマ化しているらしい。原作を読んでいないのでどの辺まで忠実かはよくわからないが、前に見た
『レディ・チャタレー』とは若干印象が違う。『レディ・チャタレー』の方は詩的な描写が多く、それがあの映画を優れものにしていたが、こちらのドラマ版はもう少し即物的で、そのせいかあまり面白味は感じなかった。原作をよく活かしていたとは思う。目を引いたのは、チャタレイ夫人、コニー役のジョエリー・リチャードソンという女優(僕は全然知らなかったが結構売れている人らしい)。この女優が、ちょっとラファエル前派の絵画みたいな風貌で、大変魅力的であった。また森を駆けるシーンなんかも、ちょっと無邪気な感じで可愛いコニーを好演していた。
他の部分では階級問題の描写がなかなかよくできていて、このテーマの追究という点では一定の成果を上げている。1時間ドラマ×4回で、しかも官能描写がところどころ織り交ぜられているので、見ていてそれほど苦にはなることはないが、全部続けて見るとなると(正味215分)疲れてきて若干の退屈さを感じるんじゃないかとは思う。全編、正攻法な表現ではあるが、少しありきたりかなとも感じる。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『レディ・チャタレー(映画)』竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(映画)』竹林軒出張所『チャタレイ夫人の恋人(2015年ドラマ版)(ドラマ)』竹林軒出張所『裁判百年史ものがたり(本)』竹林軒出張所『氾濫(映画)』竹林軒出張所『テス(2008年ドラマ版)(ドラマ)』