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竹林軒出張所

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『小野田元少尉の帰還』(ドキュメンタリー)

小野田元少尉の帰還 極秘文書が語る日比外交(2017年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

オノダさんは30人も殺害していた

『小野田元少尉の帰還』(ドキュメンタリー)_b0189364_20291344.jpg 1974年、フィリピンのルバング島に潜んでいた旧大日本帝国軍人、小野田寛郎少尉が保護され、日本に帰国した。太平洋戦争終結後30年近く、戦争が終結したことも知らず、フィリピンのジャングルに潜伏していた軍人の帰還は、平和国家の戦後日本に暮らしていた多くの人々の度肝を抜いた。もちろんその数年前にグアム島に潜伏していた横井庄一が、同様に保護されて帰国した例があって日本人にも多少の免疫はあったが、それでもそれを上回る年月潜伏していたことは、僕にとっても大変な驚きだった。
 だが、この小野田少尉、戦争が継続中であると信じ、地元民をライフルで狙撃したりしていたのだった。これは当時知らなかった事実である(あるいは意図的に隠されていたのかも知れない)。何でもその数、30人に上るということで、いくら戦争継続中と思い込んでいたとはいえ、殺害された方の関係者はたまったもんではない。そのため地元民の方も潜伏中の日本兵(小野田以外にも数人いた)を掃討する作戦を展開したらしいが、結局小野田だけは最後まで生き残っていた。
 しかしそういった事件が繰り返されていたため、(フィリピンに日本兵が潜伏しているという)この話は日本にも入ってきて、世論も何とか彼を救出すべきだという機運になった。(当時日本の経済支援が欲しいという下心があった)フィリピンのマルコス政権も小野田救出の協力を約束したため、事態は一挙に進展していく。ただし地元民の感情はそう簡単に割り切れるわけではなく(そりゃそうだろう、身内を殺されているんだから)、その辺が問題として浮上してくるが、日本政府は地元への経済支援という形で事実上の賠償をしようとする。太平洋戦争については賠償を一切行わない方針で当時の被害国に当たっていたため、直接の賠償ができないというのが日本政府のスタンスであった。
 政府により小野田救出活動は始まるが、かつて陸軍中野学校で「生き抜いて諜報活動を続けよ」という命令を受けていた小野田は、こういった活動が敵国側の作戦だと思ったようで、なかなか出てくることがなく、そのために救出活動は難航した。結局ある一人の日本人青年が小野田に接触したことから、やっと小野田をジャングルから引きずり出すことができた。その後もこの小野田の扱いをどうするかで問題になるが、フィリピンのマルコス大統領が特例の恩赦を与えることで決着が付き、無事日本政府に身柄が引き渡されることになった。ただし地元に対する賠償については、土壇場でマルコスが拒否したため、地元民にとって複雑な思いはそのまま残ることになった。
 こういった事情を明かしたのがこのドキュメンタリーで、当時子どもだった僕など「オノダさんがジャングルから戻ってきた」くらいの認識しか(当時からずっと)なかったため、僕にとっては新事実の連続で、大変興味深かった。もちろんこういった事実自体、今回新しく見つかった資料から明らかになったため、僕だけに限らず多くの人にとっても新事実ではある。
 なお帰国した小野田寛郎は、その後日本の教育問題なんかについてあれやこれやコメントする人になっていたが、さらにその後ブラジルに移住したらしい。
第54回ギャラクシー賞奨励賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『野火(映画)』
竹林軒出張所『俘虜記(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『敗走記(本)』
竹林軒出張所『総員玉砕せよ!(本)』
竹林軒出張所『ゆきゆきて、神軍(映画)』
竹林軒出張所『鬼太郎が見た玉砕(ドラマ)』

by chikurinken | 2017-04-01 07:28 | ドキュメンタリー
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