夕暮れて (1)〜(6)(1983年・NHK)
演出:深町幸男、菅野高至
脚本:山田太一
音楽:山本直純
出演:岸恵子、佐藤慶、笠智衆、米倉斉加年、佐藤浩市、真野あずさ、島田紳助
中年男女の悪あがき 山田太一の不倫三部作(『岸辺のアルバム』、
『友だち』、本作)の1本。不倫三部作というのは僕が勝手につけたもので、しかも本作については不倫は未遂で終わっている。だがそれぞれの作品ごとにアプローチが違うため(それぞれ実行、未遂、意図なし)どれも面白く、見応えがある。このドラマも今回で見るのが3回目である(放送時、CSでの再放送時、今回)。
本作は、人生も終盤にかかろうとする夫婦(岸恵子、佐藤慶)がそれぞれ、このまま年老いて良いのかと考え、夫は一人暮らしを始め、妻の方は元同級生(米倉斉加年)に誘われるまま不倫に走ろうとする。こう言ってしまうと行動が極端な感じがするかも知れないが、そこまでの過程は非常に自然で、誰でも同じような行動を起こすかも知れないと思わせる説得力がある。
不倫の方は舅と息子(笠智衆、佐藤浩市)が気が付いて直前で阻止するわけだが(第5回)、そのシーンはきわめて印象的で最初に見たときからはっきりと記憶に残っていた。ただしその後の第6回に何があったかは、見たはずなのにあまり憶えていなかった。要するにこのまま人生が終わってしまって良いのかという焦りが夫婦、不倫未遂相手によって吐露されるという流れになって、視聴者に問いかけが突きつけられることになる。登場人物達は結局元の状態に戻るわけだが、何よりもテーマが非常に明解で、しかも最後まで視聴者を引っぱるだけの緊張感と面白さがあるため、優れたドラマであるのは変わりない。
キャストはどれも名優揃いで今さら言うまでもないが、米倉斉加年のセリフが少々いやらしく感じられ(このあたりは製作側の意図かも知れない)少し不快。演出も手堅いが、セット(特にアパート)が少し安っぽいのが難点と言えるか。前も書いたが、テーマ曲の「メモリーズ・オブ・ユー」が非常に印象的である。
テレビ大賞優秀番組賞受賞
★★★☆参考:
竹林軒出張所『「早春スケッチブック」、「夕暮れて」など(ドラマ)』竹林軒出張所『春までの祭(ドラマ)』竹林軒出張所『友だち (1)〜(6)(ドラマ)』竹林軒出張所『今朝の秋(ドラマ)』竹林軒出張所『冬構え(ドラマ)』竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』