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竹林軒出張所

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『ホームレス理事長』(ドキュメンタリー)

ホームレス理事長(2016年・東海テレビ)
製作:阿武野勝彦
監督:土方宏史
撮影:中根芳樹

教育、理想、事業などに思いを馳せる

『ホームレス理事長』(ドキュメンタリー)_b0189364_20284283.jpg 中途退学の元高校球児たちを集めて、彼らが野球を続けながら高卒資格を取れるような組織を作ったある中年男の話。この男、山田豪という人だが、中途退学で行き場がなくなった高校球児を救おうという情熱を持ち、彼らの受け皿になるNPO法人「ルーキーズ」を作る。とは言うものの、現実は甘いものではなく、毎年1千万円以上の赤字を出しており、経営は思わしくない。金策に走る毎日だが、それに密着して、理念だけではなかなかうまく行かない現実の厳しさを伝えるドキュメンタリー。
 ドキュメンタリーでは、一方で、生徒側、あるいは監督らのスタッフにも密着し、さまざまな方向からこのNPOに迫る。それぞれの当事者にそれぞれなりの思いがあることがわかり、多面的なアプローチが非常に新鮮に映る。
 野球部の監督には、監督として甲子園に出場しながらその後暴力事件で高校野球界を追放された池村英樹を抜擢するなど、スタッフもかなりユニークな顔ぶれ。生徒の方も、突然カメラに向かって襲いかかってくるやつなどいて、正直こういった状態で大丈夫かと心配になる。
 このルーキーズ、案の定、生徒の数もその後あまり増えず、野球チームの状態も芳しくない。生徒側もやる気のなさをもろに出しているような者もおり、先行きはかなり不安。しかも山田豪理事長は、この組織の内部状況にはあまり関与せず、もっぱら金策に走り回るという有様で、前途ははなはだ心許ない。やがて破綻するのが目に見えるようで、正直直視できない状況が続く。そういう意味では非常にストレスのかかるドキュメンタリーではあるが、いろいろな人間の思いが交錯するこの法人の現場をうまく捉えていて、そういった人間模様を核にこの組織の姿があぶり出されている。映像表現の手法としては見事である。
 先月、今月と日本映画専門チャンネルで東海テレビ製作のドキュメンタリーがまとめて放送された。今回その放送をたて続けに見たわけだが、前に見た『死刑弁護人』、先日見た『ヤクザと憲法』など、どれもきわめてユニークな上、アプローチの仕方も真摯で非常に好感が持てるもので、日本の放送界の現場もまだまだ捨てたもんじゃないと思わせる魅力がある。この『ホームレス理事長』についても、見ながら疑問に感じてしまうことに対して、非常に良いタイミングで回答されるような技巧的な巧みさもある。もちろんテーマもユニークで、取り上げられる題材はどれも面白すぎるくらいである。あまり内容については触れない方が良いと思うので細かく語らないが、この作品も(他の東海テレビ作品同様)ドキュメンタリーの傑作であるのは間違いない。
 なおこの東海テレビのドキュメンタリーだが、製作側の方針でDVD化はあえてされないということなので、見る機会があればそのときに見ておくのが良いと思う。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『高校中退(本)』
竹林軒出張所『ドキュメント 高校中退(本)』
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヤクザと憲法(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『平成ジレンマ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ふたりの死刑囚(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『長良川ド根性(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青空どろぼう(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『人生フルーツ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『さよならテレビ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『さよならテレビ(本)』
竹林軒出張所『チョコレートな人々(映画)』

by chikurinken | 2017-01-31 07:28 | ドキュメンタリー
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