文化大革命50年 知られざる“負の連鎖”
語り始めた在米中国人
(2016年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル
止まっていた時計が少しだけ動いた……かな 1966年から約10年間、中国経済を停滞させ、しかも大勢の犠牲者を出したプロレタリア文化大革命であるが、75年に収束した後、中国政府が幕引きを図ったため、詳細は解明されないままで、しかも中国の若者たちに伝えられることさえない。事実上無かったことにされている。
しかし歴史というものはそこから何かを学ぶためにある。無いことにすれば、何も教訓を得られないばかりか、犠牲者も浮かばれないというものである。現在の中国では、政府の力が絶対であるため、今後も文化大革命(文革)の詳細が明らかになることはなかなか望めないが、アメリカ在住の中国人には、文革の詳細を次世代に伝える必要があると考えている人もいる。彼らは紅衛兵や造反派としての自らの経験を語り始めており、それに伴って文革の経緯も明らかになり始めている。このドキュメンタリーは、彼らの話を聞くことで、文革の経緯を詳らかにしようという試みで、これまであまり語られなかった文革の経緯が少しだけ明らかになっている。
1966年に始まった文革だが、当初は中高生を中心とした紅衛兵が主導していた。彼らは毛沢東の託宣を受け、若者らしい狭量の正義感で、文化財を含む既製の価値をことごとく破壊していった。革命の英雄であった毛沢東が彼らの正当性を裏付けたため、運動は全国に広がり、旧資本家や地主、かつての国民党のシンパなどの人々がつるし上げられ、しかも彼らの所有財産が強奪され中には殺される者も出てきた。学校の現場では、こういった人々の子弟がつるし上げの対象になり、言ってみれば暴力によるいじめが公然と行われるようになった。
しかしこの状況は翌年、毛沢東が彼らの行き過ぎを非難したことが契機となって沈静化するが、今度はかつてつるし上げられていた人々が名誉回復とともに既製の指導者に対する反対運動を展開するようになる。彼らは自らを造反派と読んだが、その後はこの造反派が文革運動の中心になって、会社の上司や行政の責任者に敵対し、彼らを排除することになった。結果的に政治面、行政面、経済面で指導者がいなくなるという事態が起こり、その地位をめぐって今度は造反派同士が内部対立を起こし、被害者が大量に出る結果になった。一種の内戦状態である。
こういった行き過ぎた状況に対処するため、毛沢東は各地に、行政関係者、軍関係者、一部の造反派で構成される革命委員会を設け、この革命委員会が治安の回復に当たることになるが、その過程で造反派のかなり多く(この番組で示された統計によると1カ月に数万人単位)が犠牲になったという。
このドキュメンタリーではこういった経緯が紹介され、さまざまな文革経験者によってその経験(肉親が犠牲になった人もいる)が披露される。文革の霧が今後少しずつ晴れていくかどうか分からないが、一歩踏み出したと言えるのではないか、そう思えるドキュメンタリーである。これから経験者が少しずつ減っていくことが明らかなだけに、早い段階で解明してほしい問題である。本当は中国政府がやるべきことなんだろうけどね。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『シリーズ毛沢東(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『家族と側近が語る周恩来 (1)(2)(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『家族と側近が語る周恩来 (3)(4)(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『総書記 遺された声(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『天安門事件(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『毛沢東の遺産 激論・二極化する中国(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『国家主席 習近平(ドキュメンタリー)』