やがて来る日のために(2005年・フジテレビ)
演出:堀川とんこう
脚本:山田太一
出演:市原悦子、星野真里、井川比佐志、森下愛子、上野樹里、堺雅人、柄本明、吉田日出子、神山繁、中原ひとみ
家族っていろいろあるよねーと感じるドラマ 訪問看護師が主人公で、さまざまな患者家族の人間模様を描くドラマ。
このドラマで扱われる訪問対象の家族は3つで、余命短い18歳の女子(上野樹里)の家族、弁当屋の事業を始めて会社を大きくしたが末期の病に冒された女性経営者(吉田日出子)の家族(夫はかなり年下で子どもはない)、それから余命2カ月の夫とその妻の家族(神山繁と中原ひとみ)。どのエピソードも概ね想像の範囲内で特に目新しさは感じないが、しかしおそらく綿密に取材したであろうことは窺われ、どの話もリアリティがある。したがってそれぞれに考えさせられる部分がある。
この時代の山田ドラマを見ていると、最近放送されている一般的な(なおかつ陳腐な)テレビドラマとの違いが明らかになってくる。早い話が最近のドラマの特徴として、取り上げるテーマが浅い上掘り下げ方も浅く、しかもありきたりの表現あるいは月並みな表現ばかりということが浮かび上がってくる。こういう点で非常にインスタントな印象を受けるわけだが、そういう事実が、質の高いドラマを見ると逆に照らし出されてくる。(この山田作品のような)優れたドラマに見受けられる真摯さや真面目さを欠いており、結果的に重厚さも欠くことになるのである。
このドラマはと言えば、上記の3つのエピソード以外にも未婚の母や定年退職後の夫婦のあり方までサブプロットとして盛り込まれており、いろいろなテーマ、問いかけがてんこ盛りで非常に贅沢である。中でも一番印象に残ったのが、18歳の余命短いほぼ寝たきりの少女が自分の通っていた高校とその周辺を見たいと言い出すエピソードで、これはグッと来るものがあった。上野樹里の表情による演技が非常に良かったせいでもある。
その気になれば(市原悦子の『家政婦』シリーズみたいに)シリーズ化できるようなモチーフではあるが、シリーズ化して陳腐化させないのも作り手の良心というものなのかも知れない。思いが伝わる良いドラマである。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年(本)』竹林軒出張所『旅立つ人と(ドラマ)』竹林軒出張所『大丈夫です、友よ(ドラマ)』竹林軒出張所『星ひとつの夜(ドラマ)』竹林軒出張所『この冬の恋(ドラマ)』竹林軒出張所『いのちの停車場(映画)』