“くたばれ” 坊っちゃん(2016年・NHK松山)
演出:宇佐川隆史
脚本:武藤将吾
出演:勝地涼、山崎努、瀧本美織、遠藤要、左とん平、大川裕明、西尾塁、弥尋
期待は膨らんだがやはり尻すぼみだった

「愛媛発地域ドラマ」と名うってNHK松山で製作されたドラマで、最近増えてきたNHKローカル放送局製作ドラマの1本。モチーフになっているのは松山らしく夏目漱石の『坊っちゃん』で、『坊っちゃん』にちなんだ登場人物が登場し、青春ストーリーを繰り広げていく。
冒頭から目を引くシーンで始まり、しかも面白いセリフがどんどん出てきて久々の傑作ドラマかと心躍ったが、途中から平凡になってきて、終いの方ではまったくありふれた展開になってきた。1時間ドラマという制約を鑑みると致し方ないのかも知れないが、期待が大きかっただけに失望感も大きい。この作品のように幽霊が出てきていろいろ奇跡を起こすというストーリーも、よほどうまく見せなければ月並みに終わってしまう。そういう点も最終的にガッカリした理由の1つである。
主人公は『坊っちゃん』の登場人物である「赤シャツ」の孫(勝地涼)、アパートの管理人は「野だいこ」本人(左とん平)という設定で、つまるところ『坊っちゃん』の話自体が実話だったという前提で話が進む。だがそれはそれとして、「野だいこ」が実在だとしてもすでに140〜150歳くらいのはずで、なんだか少し腑に落ちない。しかも「坊っちゃん」の亡霊(山崎努)や(話の中だけだが)「赤シャツ」自身まで出てきて、ストーリーがご都合主義に陥ったせいか、つじつまが合わないことばかりで納得がいかなくなってくる。そのため(我々の今の世界と別次元で進行している)一種のパラレルワールドだと割り切って見なければならなくなった。
『坊っちゃん』自体をドラマで再現した部分なども出てきて、これが結構よくできていたりするんで、一番の問題は演出サイドではなく、脚本サイドにあるんではないかと思うが、大風呂敷を広げたは良いが結局収拾がつかなくなってしまったというようなストーリーは、もっともっと再検討して手を加える必要があったんではないかと感じる。地方の放送局が作ったドラマにしてはいろいろな意味で意欲的だっただけに、その辺が少々惜しい。いっそのこと、『坊っちゃん』をドラマ化しちゃった方が良かったんじゃないのなどと考えてしまった。
★★★☆
参考:
竹林軒出張所『吾輩は猫である(映画)』
竹林軒出張所『夏目漱石の妻 (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『無垢の島(ドラマ)』
竹林軒出張所『命のあしあと(ドラマ)』
竹林軒出張所『ラジカセ(ドラマ)』
竹林軒出張所『鯉昇れ、焦土の空へ(ドラマ)』
竹林軒出張所『帽子(ドラマ)』
竹林軒出張所『火の魚(ドラマ) 』