暴かれる王国 サウジアラビア(2016年・英Hardcash Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
シリーズ「知られざる国々の素顔」
サウジは想像以上にアブない国だった
サウジアラビアの人権侵害の実態を報告するドキュメンタリー。
サウジアラビアの一般的なイメージといえば、中東の中ではまとも、というかヨーロッパ的な穏健さを保った国というもので、実際アメリカやヨーロッパ諸国、日本の政府も信頼に足る国として付き合っている。巨大産油国で先進国に必要とされていることもあるが、不安定要素が多かったり反欧米主義があふれている中東諸国の中で、比較的穏健かつ平和でしかも先進国的な余裕がある国という印象がある。
だがその実態はということになると実はあまり知られていない。それはサウジアラビアが国外のジャーナリストの入国を厳しく管理しているからで、先進諸国のように自由な取材が許されていないため、実情が外に伝わることがあまりないのである。しかし実際には、国内で人権を無視した行動が取られており、言論も著しく制限されているらしい。それがこのドキュメンタリーの主旨である。分かりやすく言えば中東の北朝鮮といったところである。
この番組では、隠しカメラを使って国内を撮影した潜入取材映像が紹介される。富裕国というイメージが強いサウジアラビアであるが、実は貧しい地域も存在し、国民の1/4が貧困層という話にまず驚く。さらにある活動家が政府の方針に対して批判的な意見をインターネットに掲載したために鞭打ち刑と禁固刑に処されたケース(いまだに収監されていて安否がわからないらしい)や、デモに参加した17歳の少年に死刑判決が出されたケース、スーパーみたいな場所で女性が通りすがりの男に蹴倒される状況を撮影した隠しカメラの映像(女性の人権がないに等しいことを示す証拠映像)など、想像以上の実態が明らかにされていく。
またサウジアラビア国内では、ワッハーブ主義に基づいて反ユダヤ主義、反キリスト教主義が子どもたちに教え込まれており、これがひいては差別的で反社会的な人間を育成することに繋がっていると主張する。サウジが国家として採用しているこの考え方は差別的であり、9・11の実行犯の多くやオサマ・ビンラディンがサウジアラビア出身であったこともこれを裏付けるとする。またこの考え方はISとも共通する思想で、サウジ当局は体外的にISと敵対していることを表明してはいるが実態はISと思想が非常に近いらしい。
まさに目からウロコの内容で、近くて遠い国サウジアラビアの実態が透けて見えてくるルポルタージュだった。ものごとの判断をイメージだけに委ねるのが危険であるということをあらためて思い知らされた。
★★★★参考:
竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像記録 市民が見つめたシリアの1年(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ホムスに生きる 〜シリア 若者たちの戦場〜(ドキュメンタリー)』竹林軒『圧倒的な迫力、アフガン版ネオリアリズモ』竹林軒出張所『タリバンに売られた娘(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ネットが革命を起こした(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ムハンマドたちの絶望(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『チュニジア民主化は守れるのか(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『プーチンの道(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ベラルーシ自由劇場の闘い(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『トルクメニスタン(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ハンガリーの民主主義は今(ドキュメンタリー)』