決断なき原爆投下 〜米大統領71年目の真実〜(2016年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル
原爆投下の責任は藪の中
広島・長崎への原子爆弾投下から71年経つが、当時の状況はいまだに明らかにされていない。以前見たドキュメンタリー(
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史 (1)〜(4)(ドキュメンタリー)』参照)では、当時大統領だったトルーマンが反共主義者でなおかつ無能だったため、ソ連への威嚇のために、もはや必要性がなかった原爆投下を軍に指令したという話だったが、今回NHKスペシャルで明らかにされたものはもう少し話が複雑である。
つまり当時大統領に就任したばかりのトルーマンには原爆を日本に投下する意図はなかったが、軍が勝手に暴走して作戦に踏み切ったというのである。(原爆開発のための)マンハッタン計画には多額の予算が投入されていたため、結局原爆を使いませんでしたでは済まない(議会にその責任を追求されかねない)と考えた軍の担当者、レスリー・グローブス准将が、強引に作戦を推し進めたというのがこの番組の趣旨である。このグローブス、当初は京都への原爆投下を主張していたが、この提案については、トルーマンの側近が、無差別殺戮について世界から糾弾されることを恐れて断固拒否し、軍事施設に限ると主張したため立ち消えになる。だが代わりに広島、長崎、小倉、新潟などが候補地になり、結局広島の軍事施設を標的にするという名目になり、大統領側も譲歩したという。この番組では、このあたりの事情をグローブス自身の談話(テープに残されたもの)やトルーマンの日記などから読み解いていく。トルーマンにとっては二度に渡る原爆投下ははなはだ不本意であったらしく、その後「多くのアメリカ軍人(と日本の民間人)の犠牲を少なくするためにやむを得ない措置だった」というような言い訳を語るようになった。この理屈が一般的なアメリカ人に受け入れられ、自分たちの良心に恥じない行動として是認されるようになったというわけだ。こういった行動は、言ってみれば認知的不協和の解消であり(
竹林軒出張所『なぜあの人はあやまちを認めないのか(本)』参照)、外部から見ると片腹痛いことこの上ない。
ただ、今回この番組で提供された情報については、まったくデタラメだとは思わないが、どこまで信じてよいかわからない部分もある。先代の大統領、ルーズベルトの意向なんかも当然働いているだろうし、誰が良いとか悪いとかなかなか簡単に言えないところが難しい。結局核兵器が使用されて大勢の人々が殺されたという事実だけが残るわけだ。
★★★参考:
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史 (1)〜(4)(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『きのこ雲の下で何が起きていたのか(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『忘れられた“ひろしま”(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ひろしま(映画)』竹林軒出張所『なぜあの人はあやまちを認めないのか(本)』