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竹林軒出張所

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『最強ソフトVS個性派棋士』(ドキュメンタリー)

最強ソフトVS個性派棋士 〜激闘 電王戦二番勝負〜(2016年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

山崎八段のふがいなさだけが目に付いた
がっかりな対局


『最強ソフトVS個性派棋士』(ドキュメンタリー)_b0189364_2321693.jpg コンピュータソフトとプロ棋士で将棋の対局を行うという電王戦。2016年の電王戦は、コンピュータソフト同士のトーナメントを勝ち抜いたソフトと、棋士のトーナメントを勝ち抜いたプロ棋士との対戦ということで、ポナンザ対山崎隆之八段の対戦になった。
 山崎隆之八段といえば、かつて「西の王子」と言われたさわやか棋士で、しかも棋戦での優勝経験も持つ。差し回しも割合ユニークでコンピュータに一泡吹かせてやることができるんじゃないかという期待が持たれる棋士である。
 今年の5月に行われた電王戦の対局は棋戦としては珍しい二番勝負で、初戦は山崎があっけなく敗れた。山崎はこれまでもコンピュータを活用するということをしなかった棋士で、直前にコンピュータを用意しポナンザと対局して棋戦に備えたわけだが、その間にポナンザが異常に強いということに気が付き、対局ではまったくもって気後れしてしてしまったことが主たる敗因のようである。山崎は、相手が強いと弱気になってしまう癖があるらしく、まさにそれが裏目に出た戦いであった。
 一般的な棋戦でもそうだが、棋士は対局前に対戦相手の過去の対局を調べるなどして相手の棋風を研究する。その上で相手の弱点を突いたり、自分の得意な戦型に持ち込んだりということを行う。コンピュータ相手でも、相手の棋風を研究するというのは本来であれば当然であり、それが成功したのが2014年の電王戦での豊島将之七段である(竹林軒出張所『棋士VS将棋ソフト 激闘5番勝負(ドキュメンタリー)』参照)。ところが山崎の初戦については、大した工夫も見えず、ただ気弱さだけが表に現れた。これはおそらく多くのファンにとって、また多くの棋士にとっても失望以外の何ものでもなかったはずである。
 そういうこともあり、後輩棋士たち(糸谷竜王など)が山崎の元を訪れ、ポナンザ対策を授けたりする。ところが実際の第二戦では、山崎はこの策を棄て、自分なりの戦いを挑む。で、案の定というか、中盤、山崎の弱気のせいで、相手の失着をつくことができず、粘りはしたが完敗してしまう。
 この番組では、こういった対局までの過程を丹念に追っていくというNHKの得意戦法が使われる。対局を終えた山崎八段は、自分の弱点、弱さに気付いたと語り、ドキュメンタリーではこれが最後の見せ場になっていく。
 確かに、今ひとつ突き抜けられないでいる山崎八段にとってはこの対局がプラスになったかもしれないが、トップ棋士としてはあまりに内容が不本意である。今回の対局に多くの将棋ファンは一様に落胆したんではないかと思う。棋士であるからには、魅せる、あるいはドラマをつくるくらいの気概をもって戦ってほしかったと思う。それにこのドキュメンタリーを見ていた僕自身、もっと山場があるかと思って見ていたためにひどく期待を裏切られた気がした。この程度の結末ならドキュメンタリーにする必要はなかったんじゃないかとさえ思う。
 来年の電王戦はレジェンド羽生善治三冠も参戦するらしいが、トーナメント戦なんで優勝しなければコンピュータソフトと対戦することはない。僕などは、むしろトーナメント戦にせずに、コンピュータに苦手意識を持たない若手を積極的に起用して、コンピュータの弱点を徹底的に突かせた方が面白くなるじゃないかと感じたりしている。それぐらい今のコンピュータソフトは強くなっているのである。
★★★

参考:
竹林軒出張所『運命の一手 渡辺竜王 VS 人工知能・ボナンザ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『棋士VS将棋ソフト 激闘5番勝負(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『将棋の解説者』
竹林軒出張所『将棋中継の聞き手』
by chikurinken | 2016-08-08 07:20 | ドキュメンタリー
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