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竹林軒出張所

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『ヒトラー 最後の日々』(ドキュメンタリー)

ヒトラー 最後の日々(2015年・英Finestripe Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

神のように振る舞った独裁者も
最後はみじめな一人の小心者になる


『ヒトラー 最後の日々』(ドキュメンタリー)_b0189364_2220202.jpg ヨーロッパで第二次大戦が事実上終結したのは、1945年5月2日のベルリン陥落をもってである。ソ連軍がベルリンに迫ったとき、首相官邸の地下に潜伏していたヒトラーは、自らの遺骸が連合軍に曝されるのをおそれ自殺を遂げた上、遺体を部下にガソリンで焼かせた。
 このドキュメンタリーは、ヒトラーの最後の数日間を描くもので、戦後ニュルンベルグ裁判の際に集められた証言を基にしている。ヒトラーと共に地下に潜伏していたのは、ヒトラー以外に当時のドイツ軍の司令官や高官(ゲッベルスも家族とともに潜伏)、それから事務方など雑務をこなす人々である。彼らのうちの生き残りが、戦後連合軍により聴き取り調査を受け、その証言が映像として残されている。これはニュルンベルグ裁判で利用される予定だったが結果的に表に出ることはなかった。その映像が近年明るみに出て、それに基づいて当時の様子を再現したのがこのドキュメンタリーで、一部再現ドラマで構成されている。
 証言によると、地下壕でのヒトラーは鬱状態になっており、部屋の中をウロウロするだけで、ほとんど政務を執ることができなかったという。生前の神のような振る舞いは身を潜め、恐怖に支配されたみじめな一人の人間がそこにはあった。これからソ連軍が攻めてきて自分が生きたまま掴まることを極度に恐れていたという証言もある。実際イタリアのムッソリーニも同じ頃殺され、その死体が逆さづりにされて人々の目の前に曝されている(この情報も生前のヒトラーの元に入った)。そのためヒトラーは、自殺することを決意し、部下に自分の遺体をガソリンで焼かせることを命令する。最後まで自分の名誉を守ろうとしたんだろう。その後、地下壕で愛人のエヴァ・ブラウンと正式に結婚した後、自室にこもってブラウンと共に銃と毒を使い自殺した(ゲッベルスの家族や高官たちも彼らの後を追って自殺)。ヒトラーの遺体は、遺言通り部下によって焼却された。
 この過程が、時系列で順にドラマを交えて描かれる。中心になるのは証言映像とドキュメンタリー映像で、オーソドックスな作りの非常にわかりやすいドキュメンタリーと言える。なお、ドキュメンタリー映像はカラー化されたものがふんだんに出て来て、こちらも良い効果を与えている。
 とにかく、このドキュメンタリーでも強調されていた部分だが、人々の前で尊大に振る舞い反対者を虫けらのように殺していった独裁者であっても、追いつめられれば恐怖に怯えるみじめな一人の人間になりさがってしまうということに留意すべきである。チャウシェスクしかりカダフィしかりで、彼らも無残な死体を曝すことになった。彼らの最後のみじめな姿が人前に曝されることで、かれらの無限に見えた力が幻想であったことが周知される。権力を振り回していた人間も、その力の拠り所がなくなると、とたんに一人の小心な人間に戻ってしまう。独裁政治というのも突き詰めると、所詮は人間の所業に過ぎないということがよく分かる。したがって、独裁者のみじめな最期は公開されるべきであると個人的には思う。それは、独裁者を美化する勢力の抑止にもなる。
 史上最大の独裁者であるヒトラーの最期のみじめな姿を広く知らしめたという点で、このドキュメンタリーは評価に値する。小心な独裁者の最期は、潔いものでは決してないということも理解できる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道 前後編(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー・クロニクル(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー暗殺計画』(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラー「わが闘争」封印を解かれた禁断の書(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヒトラーvs.スターリン(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第1集〜第4集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『新・映像の世紀 第3集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第14集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2016-07-25 07:19 | ドキュメンタリー
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