汚れた金メダル 国家ドーピング計画
(2016年・NHK)
NHK-BS1 フランケンシュタインの誘惑
内容は非常に興味深いが
無駄な演出が多い
ドイツ民主共和国、つまり旧東ドイツで、国家ぐるみでドーピングが行われていたことを告発する番組。
ナビゲーターを途中で登場させたり、数人の「有識者」をスタジオに呼んでアナウンサーと対話させたりという演出が施されていてバラエティ風に仕立て上げられていたが、そういう「バラエティ風」以外の部分が割合かっちりしたドキュメンタリー構成になっていたため、てっきりどこかの国(おそらくドイツ)で作られた本格的ドキュメンタリーを換骨奪胎して1本に仕立て直したものかなどと思ったりしたが、どうやら最初からNHKサイドで作られたもののようである。
内容は非常にしっかりしていて、ドイツの研究者らのインタビューや当時の映像を交えて構成されている。むしろこういう部分だけで1本のドキュメンタリーにした方が密度が濃くインパクトも大きい番組になったんではないかと思うが、NHKは往々にしてこういった無駄な演出を盛り込んで、結果的に冗長になって台無しになるということが多い。視聴者にこびるようなこういう軽薄な演出はいい加減止めにしてもらいたいものだ。
さて、その内容だが、先ほども言ったように東ドイツのドーピングの実態である。僕が子どもの頃、確かに東ドイツはオリンピックでやたらメダルを獲得していて、ソ連、東ドイツ、アメリカがオリンピックの3強というようなイメージがあった。しかし冷静に考えると、東ドイツはソ連やアメリカに比べて人口が圧倒的に少ない上(1600万人程度)、経済力だってたかだか知れていた。そういう国がオリンピックでやたら活躍する状況については子どもながらに不思議に思っていたんだが、要するにズルをやっていたということらしい。そしてそれが国威発揚のため、国ぐるみで行われていたというのだ。このプロジェクトには「国家計画14.25」という名前が付けられており、その指揮を執るのはマンフレッド・ヒュップナーという医師。彼のリードの下でさまざまな薬剤について研究が行われた。その後、筋肉増強剤トリナボールを女子砲丸投げの選手に服用させ、実績を上げることに成功した(結果的にメキシコ・オリンピックで金メダルを獲得)。ヒュップナーは目標を実現させて面目を施し、東ドイツ政府も、共産主義ドイツの威信を国の内外に向けてアピールすることに成功する。
その後もヒュップナーの下、ドーピングの研究が進められ、オリンピックのメダル数という点で大きな実績を残すようになる(金メダル数は、東京大会で3個、メキシコ大会で9個、ミュンヘン大会で20個、モントリオール大会で40個(!)、モスクワ大会で47個)。だがドーピングに対する疑惑が方々から出ることになり、結果的にドーピングの管理が厳格化して、選手に対する検査も厳しく行われるようになる。それに対して、東ドイツ側はドーピングの痕跡を隠すマスキングという技術で対抗したのだった。
このような東ドイツの実態が明らかになったのは、ドイツ統一後である。かつて薬剤を服用した選手たちにも後に健康被害が現れて、それが社会問題化するようになった。選手の多くはドーピングについて知らされていなかったということで、彼らを救済する措置が現在のドイツ政府によってとられることになったが、それでも彼らが受けた傷は大きい……というような内容である、このドキュメンタリーは。
そういったいきさつが非常にわかりやすく詳細に語られていき、まことに興味深い内容なんだが、先ほども言ったように、ところどころ無駄な演出のために内容が散漫になってしまう。実にもったいない。このシリーズ、来月も放送されるようで、
「スタンフォード監獄実験」が取り上げられる(7月28日放送予定)。こちらも面白そうなネタではある。何度も言うが無駄な演出がなければもっと良い。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『ドーピング 暴かれた実態(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『オピオイド・クライシス(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 16(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『五輪考』竹林軒出張所『FIFA腐敗の全貌に迫る(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『人が悪魔に変わる時(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『科学者 野口英世(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『激闘! 美食のワールドカップ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『よみがえる江戸城(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『病の起源 第1集 がん(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『里海 SATOUMI 瀬戸内海(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『完全解凍!アイスマン(ドキュメンタリー)』