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竹林軒出張所

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『極私的エロス・恋歌1974』(映画)

極私的エロス・恋歌1974(1974年・疾走プロダクション)
監督:原一男
音楽:加藤登紀子
出演:武田美由紀、小林佐智子、原一男(ドキュメンタリー)

半径3メートルのドキュメンタリー

『極私的エロス・恋歌1974』(映画)_b0189364_7261786.jpg 噂でタイトルだけはかなり以前から聞いていたが内容については長い間知らなかったという「伝説」のドキュメンタリー映画である。監督の原一男は、1987年に『ゆきゆきて、神軍』で大ブレークしたが、この『極私的エロス』は原一男の名前を映画ファンに初めて知らしめた原点と言える映画かも知れない。そういう伝説の映画が、このたび再DVD化されて日の目を見ることとなったのは実にめでたいことである。
 さてこの映画、内容は、監督、原一男の、言ってみれば身辺「半径3メートル」のドキュメンタリーで、非常に個人的な映画である。カメラが終始追い続けるのは武田美由紀という若い女性だが、この人、元々、原と同棲していた人で、しかも2人の間には子どもが1人ある。この美由紀という女性、非常に独立心が旺盛というか進歩的というか、とにかくワイルドで、型にはまった生き方をしたくないというタイプの人である。そのため、同棲も一方的に解消し、その後、子どもを連れて沖縄に移住してしまった。棄てられた形になった原は、その理由を探るために美由紀のもとに行くが、美由紀は女性と同居していて、なんだかこの2人の関係もややこしい。しかも美由紀は、もう一人子どもが欲しいと言っていて、それも自分一人で育てるつもりと言う(もちろんこの子どもは原の子どもではない)。で、その際の出産に当たっては、立ち会ってその様子を映像に収めてほしいという要望を原に出しているという有様である。
 この美由紀の行動と思考があまりに突拍子がなくて、頭では理解できても感覚的についていけないという状態が最初からずっと続く。ある意味非常に面白い女性ではあるが、個人的にはあまり魅力は感じない。何で原がこんな女にこだわっているのかよく分からないくらいである。いずれにしても、この映画では美由紀の(自力)出産シーンが流される。自力出産自体、この現代ではまず目にすることはないが、そういう点でも驚きのシーンと言える。しかもこれがかなり具体的な描写で、子どもが出てくるシーンも正面から定点撮影されている。こういったシーンは普通ではなかなか公共で流せないものではあるが、幸か不幸か途中から画像全体にもやがかかった状態になる。僕はてっきり意図的に処理したものかと思って見ていたが、実は撮影時に原が興奮したためレンズの曇りに気が付かなかったという話で、原によると「痛恨のミス」だったらしい。
 あるいは、性行為中と思われる美由紀のバスト・ショットなんかもあって、これなんかは言ってみれば「元祖ハメドリ」である。このように一般的な通念から行くと「エロス」のシーンが次々に出てくるんだが、この美由紀があまりにもワイルドで動物的なので、「エロ」はまったく感じない。人間もしょせん動物と感じさせる。
 あげくに、原の新しい恋人、小林佐智子まで出てきて、何でも美由紀はあまり佐智子のことは好きじゃないようだが、この佐智子までが出産し、そのシーンも映像に収められているということで二度ビックリである。なおこの佐智子、その後原一男の妻になる人であり、同時にこの映画のプロデューサー。疾走プロダクションを原一男と共に支えていく人である。
 こういったことが1本のドキュメンタリーにまとめられていて、非常に個人的というか(タイトル通り)極私的な映画ではあるが、武田美由紀の個性があまりに強烈であるため、それで1本の映画として成立しているのである。原一男の映画は、こういった強烈な個性に支えられているものが多いが、その元祖と言える映画で、何とも表現のしようがない作品である。とは言うもののインパクトが強いことだけは確かである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ゆきゆきて、神軍(映画)』
竹林軒出張所『全身小説家(映画)』
竹林軒出張所『ニッポン国VS泉南石綿村(映画)』
竹林軒出張所『れいわ一揆(映画)』

by chikurinken | 2016-06-29 07:27 | 映画
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