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竹林軒出張所

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『パナマ文書 “史上最大のリーク” 追跡の記録』(ドキュメンタリー)

パナマ文書 〜“史上最大のリーク” 追跡の記録〜
(2016年・仏PREMIERES LIGNES)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

税逃れとマネーロンダリングの実際

『パナマ文書 “史上最大のリーク” 追跡の記録』(ドキュメンタリー)_b0189364_8112739.jpg 中米パナマのとある法律事務所(モサック・フォンセカ)から流出した顧客リスト、つまりパナマ文書が大きなセンセーションを巻き起こしたのは記憶に新しい。これがなぜセンセーションを呼んだかというと、事実上の税金逃れをしている企業や個人の名前が大量に明るみに出たからである。
 ヨーロッパやアメリカなど先進国で活動している多国籍企業は、多くの場合、パナマやバハマ、香港、アメリカのデラウェア州など、税金が極端に安い国や地域(タックスヘイブン)に支社などの出先機関を作り、(書類上の操作によって)利益をそこに巧妙に流すことで、利益を過小評価し、税金逃れを行っている。このときこのタックスヘイブンに作られる出先機関は、オフショア企業と呼ばれるペーパーカンパニーで実体はない。このようなオフショア企業は税金逃れ以外に、不正に得られた資金の出所を隠すため、いわゆるマネーロンダリングにも利用されているのが現状で、脱税に加え、犯罪の温床になっているという側面もあり、先進国政府にとっては悩ましい問題である。だが一方で、そういった先進国のトップが、オフショア企業を利用していることが、今回のパナマ文書で明らかになったのである。非常にゆゆしき事態と言える。
 当初このパナマ文書を入手したのは南ドイツ新聞の記者で、同新聞は国際調査報道ジャーナリスト連合に共同で、膨大な文書を分析するよう呼びかけ、その成果が発表されたのが2016年4月であった。このドキュメンタリーを作った人々もこれに一枚噛んでいるらしい。
 このドキュメンタリーでは、モサック・フォンセカをはじめ、さまざまな関連企業について突撃取材していくんだが、同時にオフショア企業を使った税金逃れやマネーロンダリングが意外に簡単にできるということも紹介していく。たとえばあるペーパーカンパニー作成代理店は、タックスヘイブンでのペーパーカンパニー(デラウェア州、ちなみにこの会社の代表は南アフリカ人)作りから(秘匿用)預金口座(ニュージーランドの銀行)作成、実際の現金の預金作業まで、すべてをパッケージして商品として販売している(ネットで簡単に検索できて申し込みもできるらしい。興味のある方はどうぞ)。このドキュメンタリーでは、実際に関係者が身元を隠してこのサービス(?)を利用し5000ドルの現金を預金するということまでやっていたが、なんだか非常にお手軽なイメージである。ちなみにこのサービスを利用するのにかかる費用は48万円程度である。
 また、スイスのロスチャイルド系の銀行(エドモン・ドゥ・ロスチャイルド)が、アラブ首長国連邦の元官僚(カデム・アル・クバイシ)の怪しげな資金(おそらく汚職で受け取ったもの)をマネーロンダリングしていたという実態を掴み、それについても具体的に紹介していた。これはまさにマネーロンダリング手法の一例を示すもので、タックスヘイブンやオフショア企業が具体的にどのように機能しているかがよく分かるようになっている。こういう資金の流れは一般的には分かりにくい部分だが、このドキュメンタリーでは、いろいろと分かりやすくする工夫が施されている。
 あるペーパーカンパニーが別のペーパーカンパニーに出資し、そのペーパーカンパニーがさらに別のペーパーカンパニーに出資するという形を取ることで(紹介されていた例ではこれが5段階続いたが)元の資金の出所が分からなくなるようにしているという事例を表すときにマトリョーシカを使って表現していたのもなかなか心憎い演出で、思わず笑ってしまった。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『EU 租税回避1兆ユーロとの闘い(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『顧客情報を盗んだ男(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『"新富裕層" vs. 国家 〜富をめぐる攻防〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『記事は葬らせない(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『中米パナマの憂うつ(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2016-06-12 08:12 | ドキュメンタリー
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