ドナルド・トランプのおかしな世界
(2016年・英ITN Productions/Channel 4)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
ただのピエロではない
アメリカの大統領選で共和党候補のトップを走るドナルド・トランプがどんな男か、暴露するドキュメンタリー。
内容はトランプの評判を貶めるようなもので、支持者にとっては受け入れられないかも知れないが、事実そういう人間なので致し方ない。むしろなぜこのような人間に支持者がいるかの方が不思議なくらいで、そのあたりはこのドキュメンタリーでも中心的なテーマになっている(なお支持者は白人貧困層が多い)。
この番組では、少年時代、青年時代からトランプの行動を辿り、彼が非常に利己主義的で、好戦的、なおかつ人間不信の人格障害者であると主張する。不動産王とも言われる彼が自身を「経営の天才」と呼んでいることについても、その不動産業は親から引き継いだもので、経営についてはむしろ失態が多いと暴露する。25年前は多額の借金を抱えてにっちもさっちもいかなくなっていたが、レーガノミクスのおかげで甦ったということらしい。そう言えばトランプが主張することとロナルド・レーガンの主張することは「強いアメリカを取り戻す」など共通点がある。ただレーガンがアメリカ社会をズタボロにしてアメリカがいまだにその影響から抜け出せないでいるのは周知の事実。
番組内ではトランプをヒトラーに例える人もいたが、むしろムッソリーニに近いと感じる。演説会では、既存の政治、ムスリム、ヒスパニックなどを悪役として祭り上げ、その悪役を徹底的に攻撃する。そして、その悪役に対して支持者全員で敵意を向けるということをやっている。この番組のキャスターは、演説会場についてさながらプロレス会場のようだと語っている。そして演説会が一番盛り上がるのが、それに反対する人が会場に登場したときで、彼/彼女は周囲の人間から暴行を受け外に排除されるのである。異常な世界だが、こういう様式の敵意を煽る政治がどのような地獄を導くか、歴史を見れば明らかである。
このドキュメンタリーでは、こういう愚かなサイコパスが権力者になることを対岸の火事として傍観するのも危険と主張する。アメリカ大統領になるということは核兵器のボタンを握ることでもある。アメリカの良識が機能することを願いたいものだ。
★★★☆参考:
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