ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『A2』(映画)

A2(2001年・「A」製作委員会)
監督:森達也
撮影:森達也、安岡卓治
編集:森達也、安岡卓治
出演:ドキュメンタリー

自分の目で見て頭で考えることが
大事なんだなーと思う


『A2』(映画)_b0189364_856734.jpg オウム真理教が地下鉄サリン事件を引き起こしたのは1995年。あまりに内容が衝撃的だったことからオウム真理教に対する恐怖と警戒心が日本中でわき起こったのは記憶に新しい。だがその反応はその後度を超していき、マスコミの煽動も相まって、日本中で反オウム・キャンペーンが巻き起こった。事件に直接関わっていない信者に対しても、マスコミや一般人を問わずいじめや魔女狩りのような扱いで、あまりのことに少々見苦しいという状態が続いていた。恐怖があまりに昂じてくると自分の身を守るために極端な行動にも走りかねないということがよく分かる行動様式である。
 こういった状況で、日本中で圧力を受け続けるオウム真理教の内側からこの狂騒を映像で捉えたのが森達也の『A』で、本作はその続編。『A』以降の1998年から3年間を撮影した映像を集めたものである。
 オウム真理教については僕自身ももちろん気味悪さを感じていたし、騒ぎまくっている人たちについていろいろ言えないんだが、この映像を見ると、住民たちの行動があまりにヒステリックで、どう見ても異常であることはわかる。何よりも彼らが抗議している対象(つまりオウム真理教とその信者)についてまったく何も知らないんである。その上で、普通の市民に対しては行わないような危害を信者に対して加えているのが分かる。知っている相手に対してだったらこんなことはできないだろうし、そもそもしないだろう。そのあたりが森達也の主張なのだろうと思う。まず敵を(自分自身の目や耳で)知ることから始めるべきではないかというメッセージが届く。
 実際にこの映画に登場する信者は、思慮が足りないとは思うがごく普通の若者で、そのためもあって、敵対する住民と毎日交流していくうちに住民と親しくなった信者も登場する。住民の側もなぜ敵対していたのかよく分からないといった風で、お互いよく知りさせすれば煽動に踊らされたりすることもなくなるという主張が見えてくる。
 そういう意味では僕自身も、オウム真理教の内面が少しだけ見えてきたため、勉強になったわけだ。煽動に踊らされず自分の頭で考えてから判断し行動することの大切さを改めて考えるきっかけになったが、これは森達也が『放送禁止歌』のときから主張していることである。まさに森達也の面目躍如の1本であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『A(映画)』
竹林軒出張所『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔(本)』
竹林軒出張所『未解決事件File. 02 オウム真理教(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『i —新聞記者ドキュメント—(映画)』
竹林軒出張所『FAKE(映画)』
竹林軒出張所『アは「愛国」のア(本)』
竹林軒出張所『死刑(本)』
竹林軒出張所『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面(本)』
竹林軒出張所『千代田区一番一号のラビリンス(本)』
竹林軒出張所『ぼくに死刑と言えるのか(本)』
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2016-05-04 08:56 | 映画
<< 『巨人と玩具』(映画) 『リハビリの結果と責任』(本) >>