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竹林軒出張所

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『奇跡の脳 ― 脳科学者の脳が壊れたとき』(本)

奇跡の脳 ― 脳科学者の脳が壊れたとき
ジル・ボルト・テイラー著、竹内薫訳
新潮文庫

右脳が潜在的に持つ
不思議な感覚を疑似体験


『奇跡の脳 ― 脳科学者の脳が壊れたとき』(本)_b0189364_22201733.jpg 脳科学者である著者自らが脳内出血で倒れ、それから復帰するまでを詳細に書いたのがこの本。
 著者は、能動静脈奇形(AVM)を生まれつき脳内に持っていたが、37歳のときにそれが破れ、左脳に出血を起こす。つまり脳卒中であり、そのまま病院に担ぎ込まれたが、出血箇所が大脳の言語野付近であったため、高次脳機能障害が残ることになった。
 しかし同時に、論理的な左脳がダメージを受けたため、感覚的で直感的な右脳の働きが相対的に強くなって、自分が宇宙と一体化したような不思議で平和的な感覚を得ることになる(これは発病時からあったらしい)。この感覚は、社会復帰を目指してリハビリを行う過程で徐々に失われていき、最終的には(左脳が持つ)元の論理的な要素が戻ってくることになる。もちろんこれは社会復帰に繋がるわけだが、一方で著者は、あの宇宙と一体化したような不思議な感覚にも懐かしさを覚える。その過程で右脳の働きに脳科学者として多大な関心を抱くと同時に、あらためて脳の偉大さにも気付くことになる。この本の面白いところは、このように、脳科学者が、脳の機能が失われる(そして取り戻される)過程を脳の専門家として内側から観察した点にある。
 その後、著者は8年間のリハビリを経て(周囲の人々の助けももちろんあり)、(大学の教員として)社会復帰を果たす。この本は、脳卒中の経験を記した本としても価値があるが、同時に、一人の脳科学者が知覚した右脳の持つ不思議な感覚、そしてそれがもたらす至福の感覚などについても記述されていて、そういう点が特に興味深い。著者が本書で記述している右脳の感覚は、瞑想とか無我の境地とかに通ずるものなんではないかと勝手に想像しているが、著者の報告が、右脳の潜在能力の解明につながる可能性もある。そういう意味でこの本自体にも潜在性を感じる。
 翻訳は少々行きすぎな気もしないではないが(あまりに子どもっぽい表現が多い)、読みやすく分かりやすいのは間違いない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『復活した“脳の力”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『壊れた脳 生存する知(本)』
竹林軒出張所『脳は奇跡を起こす(本)』
竹林軒出張所『脳は回復する(本)』
竹林軒出張所『再起する脳 脳梗塞が改善した日(本)』
竹林軒出張所『脳がよみがえる 脳卒中・リハビリ革命(本)』
竹林軒出張所『よみがえる脳(本)』
竹林軒出張所『私の脳を治せますか?(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『腸内フローラ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『音楽好きな脳(本)』
by chikurinken | 2016-04-26 07:19 |
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