100年インタビュー 倉本聰(2016年・NHK)
NHK-BSプレミアム
もっと掘り下げて突っ込んで
土足で踏み込むような感じで
懐に入って欲しかった NHKの『100年インタビュー』もこれまでいろいろと放送されてきて、内容については玉石混交だが、今回は脚本家の倉本聰。
前に放送された
山田太一の『100年インタビュー』が戦後テレビ史を語り尽くすようなもので濃密だったこともあり、倉本聰のインタビューについてもかなり期待していたが、残念ながらあまり見所聴きどころがあるものではなかった。聞き手はNHKアナウンサーの高橋美鈴だったが、思うに彼女が少々役不足だった気がする(個人的にはこのアナウンサーは好きなんだが)。もう少し突っ込んでくれという場面が実は結構あったが、全体的に遠慮がちに接していて、場数を踏んだ聞き手であれば、もっと掘り下げて突っ込んで、土足で踏み込むような感じで相手の懐に入り、話を引き出すこともできたんじゃないかと感じたりする。インタビュアーは少しばかり図々しいくらいの方が良い。倉本自身も途中までかなりよそ行きの態度で、そういう点でもインタビューとしては最初から心許なかった。インタビュー番組は、聞き手と話し手の双方が良い条件で揃わなければ成功しないという好例になってしまったのははなはだ残念である。
唯一面白かった部分が、倉本が北海道に移住したときの話であった。倉本聰の代表作と言えば北海道を舞台にした
『北の国から』で、当然この番組でも取り上げられていたが、この作品を書く少し前に倉本自身が東京から北海道、さらには富良野へと移住している。なんでも1974年のNHK大河ドラマ『勝海舟』の脚本担当に抜擢されて、意気揚々と取り組んだは良いが、スタッフとぶつかり(相互の誤解から来たもののようだ)、逃げるようにして北海道に移ったというのが真相らしい。東京の人間がみんな自分を責めているような気がしていたにもかかわらず、北海道の人たちが非常に優しく接してくれたので、結果的に北海道を気に入り、移住することになったんだという。その結果、地に足が付いていない都会のバブリーな生活に対する批判精神みたいなものも頭をもたげ、それが表現されたのが『北の国から』なんだそうな。
そう言えばNHKは小澤征爾との間にも同じようなもめ事を起こして、小澤を海外逃亡させるきっかけを作っている(小澤はおかげさまでその後大活躍することになる)が、芸術家とたびたび揉めるのは、NHK自体にどこか官僚的な体質があるせいなんだろうか。もっとも小澤の場合は、問題が起きた相手はNHK交響楽団で、NHKと言えるかどうか微妙ではある。小澤征爾についても(うろ覚えだが)『100年インタビュー』でこのもめ事が語られていたので、NHKとしてはこのインタビュー番組に、倉本のケースも含め贖罪の意味を込めているのかも知れないと考えるのはうがち過ぎか。
他にも富良野塾の話なども語られていたが、あまり興味を引くものではなく、番組としては全体的にはかなり物足りなさが残るものだった。
またドラマ自体についても『勝海舟』と『北の国から』以外はほとんど取り上げられておらず、映画作品についても一切触れられていない。話を聞く相手が脚本家なんだから自作脚本の話をもっともっと引き出してもらいたいところだ。仕事について聞かずして何のインタビューだと思う。それに、語られた内容もどこかよそ行きのものが多く、それも物足りなさに通じる結果になった。もっと汚い部分、恥ずかしい部分も見せてほしかったと思う。NHKとのもめ事の話はそういう部分が出ていたため面白かったのであって、そういう要素がなければインタビューは取るに足りないものになってしまう。このインタビューはそういう点で失敗例と言ってよい。
★★★参考:
竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』竹林軒出張所『倉本聰×是枝裕和 特別対談(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『100年インタビュー ロナルド・ドーア(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『100年インタビュー 半藤一利(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』竹林軒出張所『北の国から (1)〜(12)(ドラマ)』竹林軒出張所『昨日、悲別で (1)〜(13)(ドラマ)』竹林軒出張所『うちのホンカン(ドラマ)』竹林軒出張所『前略おふくろ様(1)〜(26)(ドラマ)』竹林軒出張所『前略おふくろ様II(1)〜(24)(ドラマ)』