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竹林軒出張所

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『それでもなぜ戦場に行くのですか』(ドキュメンタリー)

それでもなぜ戦場に行くのですか(2016年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

そこに戦場があるから行くのだ

『それでもなぜ戦場に行くのですか』(ドキュメンタリー)_b0189364_0131357.jpg 戦争の現場に赴くいわゆる戦場ジャーナリストたちの心情に迫るドキュメンタリー。
 昨今、戦場ジャーナリストが人質になったり命を落としたりすると、「自己責任」などとしたり顔で批判する心ないネット住民が多く、そういう話を耳にすると胸くそが悪くなる。結局のところ、安全なところにいて何の問題意識も持たないようなゼロ思考の連中には何も分からないのだ。少なくとも我々には、命がけで戦場ジャーナリストが伝えようとしていることに耳を傾けるくらいの謙虚さがあっても良いんじゃないかと思う。
 この番組はそういった戦場ジャーナリストの生の声を拾うというもので、非常に硬派な内容であるが「よくぞ取り上げてくれたNHK」というような番組である。1人のジャーナリスト(綿井健陽)が、カメラを回しながら他の戦場ジャーナリストに映像で迫るという、ドキュメンタリー内ドキュメンタリーの体裁で番組は進む。登場するジャーナリストは、横田徹、玉本英子、亀山亮、高橋邦典らで、横田氏などはISの支配領域にまで入っているという強者である。「ISの支配領域は意外に治安が良かった」と言っていたが、彼の映像は今まで目にしなかったもので非常に貴重である。どこかの放送局に放送してほしいところだが、「IS=悪」(ま実際その通りなんだが)という図式からずれるんで採用されなかったのかもしれない。
 そしてこういう状況、つまりかれら戦場ジャーナリストにとって発表媒体がないということも非常に困ったことで、まず何より食えなくなるし、取材にさえ行けなくなる。中には写真を発表したいが、昨今戦場写真が受けなくなっているため、結局自費出版したという、亀山亮のような人もいる。なおこの自費出版写真集『AFRIKA WAR JOURNAL』は第32回土門拳賞を受賞している。
 クルド人の取材を続けている玉本英子は、クルドの現状を少しでも多くの人に知ってもらいたいためにクルド人たちにカメラを向けるのだと語っていた。
 こういったジャーナリストたちの意図を少しも理解できない、少しも耳を傾けようとしない、それどころか的外れな非難を繰り返す「自己責任」信者は、少なくとももう少し視野を広げるような取り組みを自分でしたらどうだと、彼らのことばを聞きながら感じる。
 この番組を通じて、危険地帯に赴きその現状を伝えようとするジャーナリストたちの生の声が聞け非常に良かったと思う(実際のところこういう機会はあまりない)。僕など彼らとは直接つながりのない一人の人間に過ぎないが、彼らが命を落としたりすることのないようささやかながらも祈りたいと思っている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カメラマン・サワダの戦争(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ブラッドが見つめた戦争(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イラク戦争関連の本』
竹林軒出張所『運命の一枚〜“戦場”写真 最大の謎に挑む(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『戦場写真家 ゲルダ・タローの真実(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『サルバドル 遥かなる日々(映画)』

by chikurinken | 2016-02-10 00:13 | ドキュメンタリー
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