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竹林軒出張所

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『人種隔離バスへの抵抗』(ドキュメンタリー)

アメリカを振り返る 人種隔離バスへの抵抗(2010年・WGBH)
NHK-Eテレ

無法地帯での公民権運動は命がけ

b0189364_7384735.jpg 2011年に(世界の教育番組に贈られる)日本賞のグランプリを受賞したドキュメンタリー作品。日本賞では質の高いドキュメンタリーが選ばれるため放送があれば毎年録画しているが、この作品については内容が重そうなのでこれまで見ずに過ごしていた。今回とうとう見ることになった。
 テーマは、アメリカ公民権運動の一環として実施されたフリーダム・ライダーズの運動である。1955年の「モンゴメリー・バス・ボイコット事件」で公民権運動は盛り上がりを見せ一定の成果を上げたが、1960年代になってもアメリカ南部では、人々の間の人種差別の感情については言うまでもなく、人種差別の法律さえ依然として存在していた。したがって白人と有色人種は、待合室から水飲み場に至るまで、あらゆる施設が隔離されており、当地の人々にとってはそれが当然のものとして存在していた。だがこのような施策(人種隔離法)は、言うまでもなく白人優位の思想に基づくもので、米連邦としてはこのような考え方を原則的に認めていない。実際、南部に残る人種隔離法について、連邦最高裁判所は違憲判決を出しているのである。
 そこで、こういった人種隔離法に対抗するため、白人、黒人の学生たちが、車内で人種隔離が実施されている長距離バスに乗り合わせて、そのまま南部を訪れるという運動(フリーダム・ライド)をすることにした。当然南部では反発が予想され、どんな目に遭わされるかはわからない。それでも当時のケネディ政権が公民権法制定に対して消極的だったことから、世間の注目を集め、政権に揺さぶりをかける手段としてこの運動が考え出されたのである。
 で、実際に当初12人の学生(フリーダム・ライダーズ)が決行することになるんだが、南部地域の反発は予想以上で、ある町ではバスの周囲が数百人もの白人至上主義者に取り囲まれ、やがてバスのガラスが割られ、バス内に火が投げ込まれるということまで起こる。逃げ出したフリーダム・ライダーズは大勢の白人に殴る蹴るの暴行を受けてしまう。しかも地元の警察はそれを止めるどころか、傍観しているほどだ。警察のトップや州知事までが白人至上主義者なのである。
 フリーダム・ライダーズたちは病院に収容されるが、そこで運動を中止することは結果的に暴力に屈することになるという理屈で、その後もさらに別の都市を目指して運動を継続することにする。ただこの事件が全国的に報道されると、連邦政府も黙っていられなくなり、それぞれの州知事に対策をとるよう要請するようになる。ただ知事側は扇動者を守ることはできないという理由で一切対策をとろうとしない。
 フリーダム・ライダーズたちは、命がけで(参加者全員事前に遺書を書いていたということで覚悟がわかるだろう)次の町を目指してバスに乗り込む。そしてその町でもまたしても白人至上主義者に襲われる。当事者たちは命の危険を感じていたとインタビューで語っていたが、このドキュメンタリーを見ると南部で公民権運動を展開することがどれだけ危険であるかがわかる。何しろ、警察をはじめとする地方の行政機関、あげくはFBIさえ敵なのである。
 最終的には米国の世論が味方してフリーダム・ライダーズの運動は成功を勝ち取り、これが人種隔離法撤廃のきっかけになるが、それまでの間、暴行が繰り返され、それどころかフリーダム・ライダーズの側が法律(人種隔離法)違反で逮捕されたりもする。また、彼らが集会を行っていた教会が襲われたこともある。その際は、当地を訪れていたマーティン・ルーサー・キング牧師が司法長官のロバート・ケネディに直接電話したため、連邦軍を動員でき事なきを得たらしい。同時にこのときにキング牧師の政治力があらためて見直されたという。このような一連のフリーダム・ライダーズの運動が連邦政府を動かすことにもつながり、その後の公民権運動の進展に寄与したわけである。
 ドキュメンタリーは全編当事者のインタビューで構成され、時系列でこの運動を追っていくという展開になる。インタビュイー(インタビューされる人)として登場するのは、フリーダム・ライダーズの参加者や、当時の連邦政府関係者などで、白人至上主義者の元知事まで出てくる。ただインタビュー自体、登場する人が多く途中から肩書きが書かれていなかったため、インタビューされているのがどういう人なのかわからなくなったりした。
 一方で、画面に出てくる当時のニュース映像や写真は、いかに南部の白人至上主義者の行動が常軌を逸しているかをよく物語っている。中に人が乗っているバスに火をつけて爆発させたら普通は極刑になるだろうが、そういう行為が一切処罰の対象にならない。集団で鉄パイプで暴行を加えても不問に付されるような社会がまともかどうかは火を見るより明らかで、当時のアメリカがいかに異常かがよくわかる。少なくとも文明国とは言いがたい。そしてその事実が世界に伝わることが、公民権運動の進展につながったわけで、メディアの力と役割もよくわかるというものである。同時にキング牧師らがこの後推し進めていった公民権運動の価値やその勇気もあらためて思い知らされる、そういうドキュメンタリー映画である。
★★★★
第38回日本賞グランプリ受賞


参考:
竹林軒出張所『グローリー 明日への行進(映画)』
竹林軒出張所『キング牧師とワシントン大行進(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『クー・クラックス・クラン 白人至上主義結社KKKの正体(本)』
竹林軒出張所『キング牧師 vs. マルコムX(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第9集(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2016-01-15 07:39 | ドキュメンタリー
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